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Joseph Lambの曲―Ragtime Nightingale作曲事情

ragtime_nightingale_1914_joseph_lamb ジョセフ・ラム(1887~1960)のラグタイムの中でも、非常に洗練された名曲のひとつが、Ragtime Nightingaleです。1915年、ラムが28歳の時に出版されました。私が初めてこの曲に出会ったのは、ジョシュア・リフキンのCD「ラグ・アンド・タンゴ」でした。叙情的で繊細で、色彩と変化に富み、ショパンの小品を思わせるような部分もあり、いつか弾いてみたいと思いました。……そして、練習を始めましたが、なかなかむずかしかしく、ショパンの「別れの曲」に挑戦したときのことを思い出しました。難易度でいえば同じくらいかと思います。また、リズムにのって機械的に弾くこともできれば、クラシック的な音楽表現を加味して演奏することもでき、奥の深い曲だと思います。

ところで、この曲の成立事情ですが、なんと3人の作曲家の曲から間接・直接の影響を受けているのです。

ragtime_oriole1911_james_scott一人目はラグタイマー、ジェームス・スコット(1885~1938)です。スコットは1911 年に Ragtime Oriole という曲を出版します。オーリオウルは、北米にいるムクドリモドキでしょうか。画像を探すと、頭が黒く、腹がオレンジ色の派手な鳥です。左の表紙では鳥のくちばしから音符が出ています。ジョセフ・ラムはこれに似たような曲、バード・コール・ラグのたぐいを作曲したいと思ったそうです。バード・コール・ホイッスルという鳥の鳴き声の出る笛がありますが、バード・コール・ラグというのは、鳥の鳴きまね入りラグ、ということでしょうか。右手のメロディーが、小鳥が高くさえずるように、オクターブずつ高くなっていく部分が、スコットの「オリオール」冒頭にも、ラムの「ナイチンゲール」にもあります。なお、スコットはラムより2歳年上なので、この曲を発表したのは26歳のときということになります。

影響を与えた二人目はピアノの詩人フレデリック・ショパン(1810~1849)です。ラムはピアニストの姉が購読していた雑誌”The Etude ”の中にショパンのハ短調のエチュード「革命」を見つけます。そしてその最初のほうにある左手のベースラインのアルペジオをRagtime Nightingale の最初の部分に借用したのです。このアルペジオはショパンの曲ではとても速く弾かれますが、ラムの曲の冒頭ではゆっくりと弾かれるので、知らなければ借用とは気づかないのではないかと思います。

三人目は、Ethelbert Nevin (1862~1901)というアメリカ人作曲家。この人に Nightingale Song という歌曲(1899)があったそうで、その断片を中間部に借用しているのだそうです。この曲の音源および楽譜は、ただいま捜索中です。

アメリカのラグタイム・ピアニストBill Edwards 氏は、ラグタイムへの薀蓄やユーモアに溢れた人です。ジョプリン、スコット、ラムというクラシック・ラグの3大巨頭の多くの作品をCD録音していますが、そのなかに面白いものがあります。ショパンの革命のエチュードがいきなり始まり、そのあとにRagtime Nightingale が演奏されるのです(”Rags For The Strenuous Life” 2003)。学術的な探究心と遊び心に敬意を払いたいと思います。なお、今回の記事の画像も氏のサイトから借用させていただきました。

●Nightingale という小鳥は欧米文学にしばしば登場しますが、北米にはいない鳥で、ラム自身も実物は知らなかったという記述をどこかで読みました。「サヨナキドリ」と翻訳され、夜に鳴く小鳥としてイギリスなどでよく知られているようです。Nightingale bird でグーグルの画像検索をすると、全身薄茶色の小鳥が出てきますが、それです。

●ラムの姉が購読していた雑誌 The Etude は1883年から1957年まで出版されていたピアノ教師のための雑誌でした。8月22日の記事に書いたように、ラムの二人の姉はピアノを得意とし、とくに長姉キャサリンはプロのピアノ教師をしていました。

更新記録:9月9日夜10時、一部を書き換えました。

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コメント

実は、Ragtime Nightingaleの冒頭部分がショパンの革命から取られた。
というのは”ガセ”ではないのかな?と思っていました。
ショパンネタだと他にも「幻想曲op.49→雪の降る街を」とか、「ピアノ協奏曲1番→北の宿から」とかありますね。
Ragtime Nightingaleの場合はハ短調と調性も同じですし、そう聴こえてしまうだけかも??と疑ってしまっていたんですね。勉強になりました。
まぁ、ショパンもベートーベンという先輩から借用したのではないかと疑われる曲もあります。
それは幻想即興曲なのですが、右手の始まるおそらく3小節目?の下降部分が、月光ソナタの最後の方、右手のみの部分に同じです。

ちなみにRagtime Oriole、明日9/10(土)演奏します。他にWeeping Willow、Alaskan Ragも演奏できそうです。
頑張ります。

投稿: 草野 | 2005/09/09 21時45分

いよいよ明日なんですね。がんばってください。
今は著作権にうるさい時代ですが、昔は結構借用ってあったんでしょうかね。8月30日にも書きましたが、ビゼーのハバネラも他の作曲家のものだったなんてね!

投稿: ラゲディ・アン | 2005/09/09 22時00分

「幻想即興曲」と「月光」、比較してみました。ほんと、「月光」の最後のアダージョに入る前のカデンツァ、トリルを入れて弾いてみると同じですね。調も同じだし。知りませんでした!

投稿: ラゲディ・アン | 2005/09/09 22時56分

ラゲディ・アンさん
>どちらもNEWつきの街ですね。私はニュー・オーリンズに行ったことはないのですが、たまたた昨日、誕生日だった母を訪れたら、昔、ニュー・オーリンズに行ったときの話をしてくれました。夜、同行の人たちとジャズクラブに行って、演奏を聞いたそうです。その際お土産にそのクラブのバンドのレコードを買ってきてくれました。これ、30年前の話です。レコードの写真はご老体ばかりのバンドで、10代の私が聞いても録音レベルは悪く、演奏もそれほど上手ではなくて、ちょっとがっかりした記憶があります。でも、今聞いたら、ちょっと評価が違うかな、と思います。音は悪くても、リズムや演奏のスピリットというものは、本場特有のものがあると思うんですよね。残念ながら、もうレコードは手元にありません。
>New Yorkは、今でも掛け値なしにexcitingな街ですよね。私が行ったときは子連れでしかも妊娠中で、美術館とおもちゃ屋さんに行くのでせいいっぱいでした。本当の楽しさは味わっていません、多分。ぜひ楽しんできてくださいね。
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アンさんはニューヨークに行かれたことがあるのですね。私は今回が初めてとなります。1年くらい住まないと町のことなぞなかなか把握できないのでしょうが、ちょっとだけでも覗いてみたいです。(

投稿: 裕美・ルミィヤンツェヴァ | 2005/09/13 17時31分

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