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ピアノ組曲「虫の館」―60年を経て日の目を見る

Rued_langgaard__1  Rued Langgaard (1893-1952)というデンマーク人の作曲家がいます。

 この人のピアノ組曲に「Insektarium 」(虫の館)というものがあると知り、CDを探しました。米国のアマゾン(Amazon.com)のマーケット・プレイスで見つけた「新品」は、Teddy Teirupというピアニストが弾いているもので、1999年、デンマークのPaula Recordsで発売されたものでした。

 組曲「Insektarium」は、以下の曲で構成されています。(英語表記だけ記しました)
1. earwing
2. migrating grasshopper
3. cockchoafer
4. daddy longlegs
5. dragon fly
6. death watch beetle
7. housefly
8. millipede
9. mosquito

 それぞれ、「ハサミムシ」、「移動中のバッタ」、「コフキコガネ」、「メクラグモ(ガガンボ?)」、「トンボ」、「瀕死の甲虫」、「イエバエ」、「ヤスデ」、「カ」と訳したらいいでしょうか?  

 それぞれの曲は、短いものは32秒、長いものでも1分43秒という極端な短さです。解説によると、ランガードは後期ロマンはおよび象徴主義の作曲家ですが、この組曲は印象派の影響があるものの、たいへんユニークなものだそうで、ピアノの弦をはじいたり、蓋の上を叩いたりというような、前衛的な手法も(おそらく初めて)用いられています。蓋を叩く手法は、「瀕死の甲虫」で用いられていますが、瀕死の甲虫が仲間の注意をひくために、木造物に頭をリズミカルにぶつける音を表現しているのだそうです。

 聞いてみると、非常に面白い曲、というか断片です。「現代音楽は耳障りで……」という人にはおすすめできないかもしれませんが、それぞれの虫の様子を巧みに表現しています。虫の生態の映像のバックにこの音楽を流したら、とっても芸術的かつ効果的かもしれないと思いました。また、演奏がシャープで素晴らしいので、純粋にピアノ音楽として楽しめると思います。

 作曲者のランガードは、今でこそデンマークの誇るべき才能ある音楽家ですが、生前は恵まれず、その作曲が注目を浴びたのは、死後かなりたってからだったようです。解説によると、子ども時代は神童とされて才能を示しましたが、当時(デンマークで?)支配的だった反ロマン主義の潮流に対して、徐々に敵対する関係となっていきました。コペンハーゲンで貧困生活を送り、1940年にリーベの町の教会でオルガニストとなるまで、職業がなかったということです。それは、なんと47歳のときです。

 組曲「Insektarium」が作曲されたのは1917年、まだ24歳の頃でした。曲を聞くと、ほんとうに素晴らしい才能です! しかし、なんと死後25年もたった1977年まで演奏されることはなかったのです。それは作曲されてから、なんと60年後のことでした。楽譜も未出版で、手稿がコペンハーゲンのロイヤル・ライブラリーに収蔵されているだけだそうです。

 1917年というのは、音楽の世界では、ラベルの「クープランの墓」、ドビュッシーの「バイオリンソナタ」、プロコフィエフの「交響曲一番」が作曲された年です。前衛的と物議をかもしたストラヴィンスキーの「春の祭典」はその4年前でした。オーストリアではすでにシェーンベルクが前衛的な作品を発表していましたが、当時のデンマークで、たしかにランガードの作曲は、なかなか理解されなかったのかもしれません。

 デンマークというと相当寒い地域でしょうが、当時のコペンハーゲンには、どんな昆虫が普通に見られたのでしょうか。この組曲では、チョウやガは選ばれず、トンボや甲虫、バッタは別にして(これ自体、偏見?)、なんとなく普通の人が嫌がりそうな虫ばかりが選ばれています。ランガードは、ファーブルのように、純粋にこのような虫たちに愛情をもっていたのでしょうか、それとも世間や世俗に迎合しない気概を示すものとして、敢えてこういうラインナップにしたのか? 想像の余地があるところです。

 いずれにしろ、虫をテーマにしたクラシック音楽ということで非常に珍しく、また曲の完成度と演奏の素晴らしさからいっても、興味のある方は必聴です!!!

●Rued Langgaardのオフィシャルサイトがありました。
http://www.langgaard.dk/indexe.htm

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コメント

ピアノの弦をはじいたり蓋の上を叩いたり、という曲はあるとは知っていてもあまり聴かないですね。
手持ちのCDではJohn Cageの「Bacchanale for prepared piano」という曲しかありません。

虫を表題にした曲って少ないですね。
サティにも見る限りそれらしき表題の曲はなかったです。

それを調べているうちに、サティの曲に「Ragtime Parade」というものがあることを発見しました。
amazonで試聴してみましたが、ラグタイムっぽくないです。

投稿: 草野 | 2006/06/04 09時26分

ジョン・ケージは、実験的なことをいろいろしていそうですね。
ピアノの弦をはじくのは、ジャズの人などがしているかも。山下洋輔なんて、してた(今もしてる?)んじゃないでしょうか。
サティの曲、干からびた胎児はありますよね~。「ラグタイム・パレード」は知りませんでした。ストラヴィンスキーの曲で「ラグタイム」を冠したものも、全然ラグタイムっぽくないです。

投稿: ラゲディ・アン | 2006/06/10 22時50分

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