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映画『スティング』に、なぜラグタイムが使われたか?

スコット・ジョプリンの「エンターテイナー」に代表されるラグタイム音楽。
このラグタイム音楽が世間に広く見直されるようになったのは、
『スティング』(1973)の映画音楽として使われたから、と言われています。

この映画はストーリーの面白さと、
ポール・ニューマンやロバート・レッドフォードらの達者な演技、
軽快な音楽で大ヒットし、同年、7部門でアカデミー賞を受賞します。

さて、それなら、なぜこの映画にラグタイムが採用されたのでしょう?
1930年代のシカゴが舞台のこの映画。
当時の音楽だとしたら、ジャズを使ってもおかしくないし……。
この映画の音楽担当は、マーヴィン・ハムリッシュ
数々の映画音楽を手がけているベテラン音楽家ですが、
その功績なのでしょうか?

ここ数日、疑問に感じていたのですが、
ラグタイム・ピアニストにして研究家のBill Edwards氏が、
これについて述べていました。
(彼のサイトの、”The Entretainer”の曲目解説の部分)
それによると、『スティング』の監督ジョージ・ロイ・ヒルは、
この映画ができる2年前、
ジョシュア・リフキンが弾いたスコット・ジョプリンのピアノ・ラグのレコードを聞き、
自分の新作に使うことを思い立ち、
音楽監督のハムリッシュに、アレンジを依頼したというのです。
しかも、ロイ・ヒルの息子がその録音に関わっていたらしい……(ほんと?)。

クラシック音楽学者で、今やバッハ研究の権威ジョシュア・リフキン(1944~)が、
ピアニストとしてスコット・ジョプリンのラグタイムを弾いたレコードを出したのが、
1970年のことでした。(”Piano Rags by Scott Joplin” by Joshua Rifkin )。  

このレコードは大ヒットしますが、それについて、リフキンはこうコメントしています。
「我々は、このレコードを1970年の11月に発表した。そして、直ちに、非常に熱狂的な社会の反応ぶりを受け取ることになる。レコードの販売促進用の広報活動に一銭も金を使わなかったにもかかわらずだ。ともかく、レコードは、まさに、すごい勢いで売れていった。それは、真実、まことに驚くべき出来事だった。」
(「スコット・ジョプリン ピアノ・ラグVol. 1」のライナーノーツより)

ジョージ・ロイ・ヒルが聞いたのも、このレコードでしょう。
すでにこのレコードのヒットで、
ラグタイムは社会的に再認識され始めていました。
しかも、クラシック音楽の分野からの着目という点で、
幅広く受け入れられたのではないでしょうか。
映画『スティング』がラグタイム・リバイバルの立役者だったかもしれませんが、
ジョシュア・リフキンのラグタイムへの関心があってこそのことだったのです。

ジョシュア・リフキンとラグタイムの出会いは10歳(1954年)のころだったそうです。

ニューヨーク生まれのリフキンは、
当時ニュー・オーリンズ・ジャズに興味を持っていました。
そして兄弟とともによく下町へ行き、
ニュー・オーリンズからやってきていた古いジャズメンたちと知り合って一緒に演奏し、
スコット・ジョプリンの曲も、そこで知りました。
そしてジャズメンたちが弾くような弾き方で(つまり、ジャズ風にアレンジしたかたちで)、
弾いていたそうです。

そして1968年(24歳)ころ、
友人の作曲家がラグタイムの小品を手に入れて興味を持っていると聞き、
子ども時代のことを思い出します。
クラシック音楽を正式に学んだ目でラグタイムを見直してみると、
それは自分が昔弾いていたものとは、まったく違っていたことに気づいたそうです。
そしてリフキンは、その友人エリック・ザルツマンとともに、
「ラグタイムと初期ジャズの夕べ」というラジオ番組を持つようになりました。

こうしてラグタイムへの関心を深めていき、
リフキンは、ジョプリンのラグタイムをクラシック音楽としてとらえ直すようになります。
(すべてのラグタイムが、というわけではないそうですが)
自分がかつてジャズとして弾いていたときのような慣習的な弾き方でなく、
楽譜に書かれている通りに演奏するべきものとみなし、
そのように演奏したのです。
つまりスコット・ジョプリンのラグタイムを、
クラシック音楽としてとらえ直したのでした。
そしてレコード化を考え、
あえて、クラシック・レーベルから発売したのだそうです。
(以上、上記のライナーノーツによる。LP発売当時のものが流用されているとのこと)

映画『スティング』に、なぜラグタイムが使われたか?
なぜ、この映画をきっかけにラグタイムがリバイバルしたか?

第一に、ジョシュア・リフキンの功績
第二に、ジョージ・ロイ・ヒルの慧眼
第三に、映画に音楽を巧みにフィットさせたマーヴィン・ハムリッシュの手腕

以上が答えといってよいでしょうか。

このことについて、もっと何かご存知の方がいたら、
ご教示いただければ幸いです。

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★その後、判明した経緯があります。こちらの記事も合わせてどうぞ。
http://elmtree.air-nifty.com/ragromenade/2007/02/post_b5f5.html#comments

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コメント

 リフキンの第1集は70年12月にビルボード誌のベストセラーのトップを獲得しました。
 ところで、映画スティングには、サントラ盤に収録されていないJOplinのラグが1曲あります。
  その曲はThe Cascadesです。ロバート・レッドフォードがスナイダー刑事に追われて遊園地を逃げ回るシーンに使われています。
 なぜはずされたのかは解りませんが、その理由を考えるのも面白いですよ。

投稿: 大矢 | 2006/09/26 11時50分

なぜ使われたかの、もうひとつの理由に
71年にニューヨーク国立図書館から出版されたJoplin楽譜集のヒットが挙げられます。
 リフキンのレコーディング同様、30年以上経った今でも発売され続けている息の長いヒット作です。

投稿: 大矢 | 2006/09/26 15時51分

大矢さん、コメントありがとうございます。

●リフキンのLP、発売後1ヶ月でビルボード誌のトップということですね。これはすごいヒットだったのでしょうね。 
●Cascadesがサントラにない理由! ほんと、何故なのでしょう。想像してみます。
●71年の楽譜集というのは、ひょっとして、Vera Brodsky Lawrence版の「The Collected Works of Scott Joplin」でしょうか? Bill Edwards氏が、スティングの2年前に出版されたものとして、述べていて、多分楽譜なのだろうと想像していたのですが……。
今、室町さんのRagtime Bettyを見たら、Vera Brodsky Lawrence版の紹介がありました。これは、まだ入手できるということですね! 
●リフキンのレコード化より以前に、"They All Played Ragtime"(1950)のような研究書も出版されていていましたね。ラグタイムリバイバルへの下地はあったのでしょうね……。
●映画『スティング』を、もう一度見直してみます!

いろいろ、ありがとうございました。また、教えてください!
コメントの改行が反映されないので、箇条書きにしました……。

投稿: ラゲディ・アン | 2006/09/26 20時37分

●はい、その通りVera Brodsky Lawrence版です。銀座のヤマハにあるかもしれません。eBayにはよく出ますが●50年代、60年代はジャズ界の一部のトラディショナルジャズプレーヤーが演奏するぐらいでした。クラッシクファンにまで広げたのはリフキンの功績とJoplinの曲の偉大さでしょう

投稿: 大矢 | 2006/09/26 23時05分

大矢様 ●銀座のヤマハですか! アマゾンにusedはありました。状態のいいものは結構な価格ですね。 ●リフキンもジャズ風に弾いて遊んでいたというのが面白かったです。しかし、ジョプリンの曲の偉大さは大きいでしょうね。ジョプリンはセダリアのカレッジで記譜法を学んだといいますが、クラシック曲と並べて全く遜色のない記譜法だったからこそ、リフキンの感動を呼んだのかもしれませんね。

投稿: ラゲディ・アン | 2006/09/27 00時24分

「自分がかつてジャズとして弾いていたときのような慣習的な弾き方でなく、楽譜に書かれている通りに演奏するべきものとみなし、そのように演奏したのです。つまりスコット・ジョプリンのラグタイムを、クラシック音楽としてとらえ直したのでした。」

このお話は、アレェクスェイがラグタイムを本格的に弾くことになったいきさつに非常に似ています。昔は彼もジャズ風に弾いていたので・・・

映画「スティング」以前のリフキンのヒット話は意外と有名かもしれません。いたるところで描写を見つけます。

CASCADESが外された理由ですが、サントラの時間制限はなかったのでしょうか?60分までとか???でなければ何故でしょう???

投稿: 裕美・ルミィヤンツェヴァ | 2006/09/27 05時03分

"KING COTTON"という曲の2つ目の部分である SOUSA MARCH も映画には出てきますが、CASCADESと同様サントラには入っておりません。 その理由はやはりレコードの編集作業にあるようです。まず昔のvinyl LPでは異なる回転数の問題があり、技術的に自由がきかなかったとのこと。また、出来栄えが良くなるために故意に曲順を変更したとか、いくつかの理由があるようです。 実際に映画では使用されていない曲がサントラに入っているケースもあります。 基本的にサントラは映画のタイトル・カードを基準にあらすじに沿って作成されていますので、言ってみれば編集者に都合の良い出来栄えというわけです。更に、映画で使用されたテイクとサントラのテイクが異なる場合もあります。

投稿: 裕美・ルミィヤンツェヴァ | 2006/09/27 05時43分

●アレェクスェイさんも最初はジャズとして弾いていたのですか! それは、やはりニューオーリンズ風の演奏としてだったのでしょうか。それにしても、リフキンさんと同じ道ですね。とても興味深いお話です。

●リフキンの71年のLPのヒットがすごかったという話、有名なんですね。映画「スティング」と関連付けて考えたことがなかったのですが、明らかに影響があったことがわかって、面白かったです。

●「スティング」サントラへの収録曲、技術的・物理的な事情はそうなんでしょうね。KING COTTONってどんな曲だっけと思ってMIDIを探して聞いてみたら、よく耳にするマーチでした。スーザの曲とCascadesが揃ってオミットされてるのはある意味、セント・ルイス万博以来の因縁でしょうか!? 

投稿: ラゲディ・アン | 2006/09/27 20時03分

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