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The Rosebud Bar のあった頃(1900~1906)    ~セント・ルイスとラグタイム

「薔薇のつぼみ」という名前のバーが、昔、セント・ルイスにありました。
ミズーリ州セント・ルイス。1900~1906年のことです。
当時、Chestnut Valleyと呼ばれた夜の街、歓楽街の中、
アフリカ系アメリカ人トム・ターピン(Tom Turpin)の経営する店でした。
ここが、ラグライムの歴史を語る上で欠かすことの出来ない場所、
The Rosebud Barでした。
(写真はこちら)

http://www.aaregistry.com/african_american_history/1661/The_Rosebud_Bar_the_spot_for_Ragtime

この時代、多くのラグタイム弾きが、
セント・ルイスの街に引き寄せられ、集いました。
The Rosebud Barの経営者であるTom Turpin(トム・ターピン)、
この街生まれのLouis Chauvin(ルイ・ショーバン)、
スターク出版のセント・ルイス進出(1900)に伴って、
セダリアからやって来たScott Joplin(スコット・ジョプリン)、
その教え子でセダリア生まれのScott Hayden(スコット・ヘイドゥン)とArthur Marshall(アーサー・マーシャル)、
それから、Arthie Matthews(アーティ・マチュー)にJoe Jordan(ジョー・ジョーダン)……。
また、The Rosebud Barとつながりがあるかどうかはわかりませんが、
盲目のラグタイム作曲者Charles Hunter(チャールズ・ハンター)もここにやって来て、
1906年にセント・ルイスで亡くなっています。

Tom Turpinは、やり手の経営者である一方、ピアノ弾きの名人でもあり、
1897年にHarlem Ragを出版。
これは、黒人による最初のラグタイム楽譜出版でした。
バーの一室には、巨漢の彼が弾きやすいように、
アップライトピアノが約30センチの高さの「ゲタ」をはかせて設置されました。
お腹がつっかえるのと、その体重でパワフルな演奏をして椅子が壊れるのとで、
なんと立ったまま演奏したのだそうです。

Tom Turpinは、1904年の2月22日に街でピアノ・コンテストを開催、
これに優勝したのが、ルイ・ショーバンでした。
ルイ・ショーバンは天才的なピアノ弾きでしたが、
楽譜は読めず、また自作の曲を楽譜に書き留めることもありませんでした。
唯一残っているラグタイム曲は、ジョプリンが書き留めて後半を書き足した共作、
Heliotrope Bouquet(1907)。ショーバン作曲の部分は、
ほのかなハーブが香り立つような甘いメロディーです。
ショーバンがシカゴに移ったあと、その死の前年に出版されました。

この時代のセント・ルイスの雰囲気は、おそらく特殊でした。
1904年がそのピークで、4月30日から12月1日まで、
それまででは史上最大規模というセント・ルイス万国博覧会が開催されました。
世界中から43カ国がここに参加、もちろん日本もです。

余談ながら、私が以前、九州の有田に行ったとき、
街の小さな店で、金襴手のお皿を買いました。
赤や青の染め付けに、豪華な金の縁取り。
絵柄の中心は馬のようでしした。
しかしそんな高級なものではなくて、手頃な価格でした。
それは、なんとこのセント・ルイス万博に出品したものだと説明されました。
当時からず~っと作り続けているそうです。
有田では、老舗の深川製磁がここに出品して、
確か金賞を得ています。

さて、さらに、なんとこの1904年の7月、
セント・ルイスで第3回夏季オリンピック大会も開催されました。
この時代は万博とオリンピックは同時に開催されたようです。
まさに、活気と熱気に満ちた、セント・ルイスのゴールデン・イヤーでした。

博覧会では、スーザのマーチが演奏され、
そしてMaple Leaf Rag(1899)のヒットで知られたジョプリンも、
この博覧会のためにThe Cascade(1904)を作曲、演奏しました。
スコット・ジョプリンの曲では、
The Easy Winners(1901)、Peacherine Rag(1901)、The Entertainer(1902)
などをはじめ多くが、ここセント・ルイスで出版されています。
下記のサイトで、ジョプリンが1900年、
セント・ルイスに居を構え、新婚の妻と住んだ家(Scott Joplin House)が見られます。
http://stlouis.missouri.org/house-museum/

また、ジョプリンには、その名もRosebud March(1905)という作品もあり、
Tom Turpinに捧げられています。
ラグタイムではないので、ジョプリンのラグタイム曲集には普通収録されていません。
また、ジョプリンがTurpinに捧げた曲は、このほかに、
Augustan Club Waltez(1901)があります。
また、Searchlight Rag (1907, NY) のタイトルも、Turpinに関係がありました。
Tom Turpinが以前所有していたネバダの金鉱の名がThe Searchlight Mineで、
その名にちなんだ曲名ということです。

また、ジョプリンはセント・ルイスで、
いくつもの「共作」を出版しています。
アーサー・マーシャルとはSwipsy(1900)など、
スコット・ヘイドゥンとはSunflower Slow Drug(1901)やSomething Doing(1903)。
また、セント・ルイスっ子のルイ・ショーバンの曲をもとにしたHeliotrope Bouquet(1907)。
当時のセント・ルイスでの交友や熱気が、多くの音楽を生みました。


_p9040083 このCD、「Ragtime At The Rosebud 」のおかげで、
当時のセント・ルイスとラグタイムの関係が、
おぼろげに見え始めてきたような気がします。
The Roots of Ragtime」の副題もあるのCDのキャッチフレーズによれば、

「ジャズにとってのニュー・オリンズにあたる場所が、
ラグタイムにとってのローズ・バッド」

とまで、図式化しています。
ピアニストMilton  Kayeによる1972年の録音。
LPとして出されて絶版状態だったものが、
最近CD化されたものということです。
Rosebud Marchから始まり、
普通はなかなか聞けないマーシャルやターピンの曲が多く収録されています。
また、上記「共作」や、マチューのPastime Rag全曲も収録。
さらに意欲的なのが、ショーバンの断片からこのCDのためにkayeがアレンジした、
「Chauviniana」(1974)という曲。
「ショーバニアーナ」、ニホンゴにすると「ショーバン拾遺」でしょうか。
絶版状態の時代を知らず、
今、苦労もなしにこんな素晴らしいCDを入手できた私は、
たいへんラッキーでした。

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コメント

きちんとしたCDでした?(笑)
僕はなんとかバックアップを入手できました。

解説ありがとうございます。(英語が出来ないので…)
このCDは、つぼみというか、ラグタイムがつぼみからちょっと膨らんで花が咲き始めた頃(日本人好みか?)の作品ばかりで、名盤ですね。

投稿: 草野 | 2006/09/15 00時14分

内容が濃いブログですね 大いに勉強になりました

投稿: sugou | 2006/09/15 00時15分

CD到着時にまずしたことは、裏面をチェックすることでした……。運よく(?)大丈夫でしたが。
本当に名盤だと思います。このCDがきっかけで、いろいろなことに気づきました。

投稿: ラゲディ・アン | 2006/09/16 20時23分

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