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「ヘリオトロープ・ブーケ」の香り

6a00c22524bc0a549d00c225285497f21_2 ヘリオトロープ。
この言葉に初めて出会ったのは、Scott Joplinのピアノ曲集をめくっていて、
「Heliotrope Bouquet」(1907)という曲に行き当たったときです。

メロディーがあまりにもきれいで、すぐに弾き始めてはまりました。
ロマンティックで、切なくて、想いを込めて弾きたいような旋律。
ジョプリン曲集に入っていたのでずっとジョプリン作と信じていましたが、実は前半のAB部分はLouis Chauvinによるもので、ジョプリンが後半のCD部分をつけて仕上げて出版したものと知ったのは、すらすら弾けるようになった後でした。

P1010137 ヘリオトロープって、どんな花なんだろう?
曲を弾きながら、ずっと疑問に思っていました。
原産地はペルー。和名はキダチルリソウ……。
ネット検索の情報では、どうも今ひとつ。
そして、あるとき花屋さんでヘリオトロープの鉢を見つけたときは狂喜しました。
濃い紫色の清楚な小花。
そして葉を触ると手に残る芳香。
水やりをするたびに、その香りが漂ってきます。
そうか、香草なんだな~と実感。
花自体は地味で、観賞用という感じではありません。

とすると、「ヘリオトロープの花束」とは、
ラベンダーを束ねたもののように、
ハーブの花束なのだろうな。
そんな風に思っていました。

そしてしばらくのち。
夏目漱石の小説『三四郎』にヘリオトロープが出てくることを知りました。
それが、花ではなくて、香水として出てくるのです。
ヘリオトロープの香水!
香水作りに使われるハーブだったのでした。

待てよ。
『三四郎』が書かれたのは、いつだろう?
1909年(明治42年)ではないですか。
一方、この曲の楽譜がNYのStark出版から出されたのは、1907年。
ほとんど同じような年代です。
極東の日本にもその香水が伝わっていたのです(フランス製でしょうか?)。
まして、アメリカのセントルイスやシカゴ、ニューヨークのような都会だったら、
もっとよく知られたもの、馴染みのものだったのかも。
この曲のタイトルも、ひょっとして香水をイメージしたものかもしれない。
そんな風にも思えてきました。

しかも、ブーケと言う言葉、香りにも使います。
本来はフランス語で、ワインの香りを表現するときなどには、多様される言葉です。
「すみれのブーケがある……」なんていう風に。
仏語辞書を引いてみたら、
bouquet:(花束を思わせる葡萄酒・葉巻の)芳香・におい
とありました。
まさに、どんぴしゃり?

というわけで、
「ヘリオトロープ・ブーケ」は「ヘリオトロープ香水の香り」かもしれない。
最近は、そんなことも思いながら弾いています。
明治末の頃、世界的にヘリオトロープの香水の流行があったのでしょうか……。

ちなみにLouis Chauvin、ルイ・ショーバン(1881~1908)は、
ミズーリ州セントルイス生まれで、
アフリカ系の母とスパニッシュ・インディアン系の父をもつ混血だったそうです。
当時のセントルイスでは一番のピアニストでしたが、
「耳のプレイヤー」とも呼ばれ、楽譜を残さず、弾きっぱなしの天才肌でした。
楽譜が残されているのも、このジョプリンとの共作一つだけ。
流れ着いた先のシカゴで病になったところをジョプリンが訪れ、
楽譜に書き留めて仕上げ、
共作として死の直前に出版されました。
1907年12月23日の出版、
ショーバンが亡くなったのは翌年の3月26日でした。

さて、鉢植えはベランダにコレクション(?)しました。
次は、ヘリオトロープの香水に出会ったら、
手に入れてみたい、かも!?

【付記】
★この曲のタイトルが「ヘリオトロープの花束」と訳される場合もあるのですが、以上の理由で「ヘリオトロープ・ブーケ」のカタカナ表記が、一番よいと思います。
★日本での呼び名に「ニオイムラサキ」、「コウスイソウ」などもあること、hachibeiさんに教えていただきました。育ててみると香りがよく、本当にそういう感じ。いかにも情緒ある、ふさわしい呼び名だと思いました。
★曲名を誰がつけたのかはわかりません。メロディーを作ったChauvinなのか、曲を仕上げたJoplinなのか、楽譜の売れ線をねらうStark出版関係者なのか……。いずれにしろ、ヘリオトロープ香水の香りで呼び覚まされる女性、そんなイメージが湧いてくるような曲想です。Chauvinが刹那的なピアノ弾き人生を送っていたであろうセントルイスやシカゴの歓楽街が、お酒や香水の匂いに満ち溢れていたことも想像できます。
アール・ヌーヴォー調の表紙からラリックの香水瓶を連想してしまうのは、考えすぎでしょうか。ラリックがコティの依頼で香水瓶を初めて発売したのは、1908年とのことです。(9月18日)

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