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「ゴリウォーグ」と「ケーク・ウォーク」

                                                                                 
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これは、ドビュッシーのピアノ組曲「子どもの領分」の楽譜。最近オークションで手に入れました。フランスのA.Durand & Filsの出版で、版権取得が1908年。1908年はまさに「子どもの領分」の出版年ですから、おそらく初版と同じ体裁なのではと想像しています。手元にあるこの実物自体は、19482月にパリで出版されたものです。

ドビュッシーはフランス人ですが、面白いことに、この組曲は題名がすべて英語表記です。組曲名は「Children's Corner」。中の小曲の題名もすべて英語。これには、ドビュッシー自身や、当時の妻エンマのイギリス趣味が反映されていると言われています。またこの曲はエンマとの間の愛娘シューシューに捧げられています。

ところで、私は以前から、この中の「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」という曲が好きで弾いていました。それも高校時代からのこと。うきうきするようなシンコペーションのリズムや、ユーモラスな表現などが好きでした。ケーク・ウォークとは、アメリカの黒人たちのダンス音楽で、踊りで優勝するとケーキをもらえるからCake Walkと呼ばれた、というのが一般的説明。またゴリウォーグは黒人の人形ということも、楽譜解説などに書かれています。

なお、このケーク・ウォークが、アメリカのラグタイムの前進となるシンコペーション音楽だと知ったのは、ずっとあとのことです。

さて、それで気になったのが、この表紙の奇妙な絵。小さな象の背中から紐のようなものが出ていて、その上に風船のように浮かぶ変てこな顔……。これは一体何だろう? ひょっとしてゴリウォーグ? 

調べてみてわかったのは、「ゴリウォーグ」(Golliwogg)は、そもそもイギリスの絵本の主人公だということでした。作者のフローレンス・アプトンは、幼い頃アメリカで育ちました。絵本の題材を考えていたときに、屋根裏にあった古い人形――黒い肌のラグ・ドール(ぼろきれ人形)を思い出し、それを主人公に。それがゴリウォーグでした。アメリカン・カントリークラフトでよく目にするラゲディ・アン人形も、もともとはラグ・ドールですが、開拓時代のアメリカでは、このようなぼろきれ人形がたくさん作られていたのでしょう。その中でアメリカの漫画家グリューエルがキャラクター化したのがラゲディ・アン。そしてゴリウォーグは、イギリスの絵本作家アプトンがキャラクター化したものだ、と言えそうです。

ゴリウォーグ・シリーズの絵本は、1895年から1909年までに13冊出版されています。また、ゴリウォーグの人形や、絵柄を描いた商品も現在までに多く作られているようで、コレクターもいる世界のようです。またイギリスでは人気作となる一方、アメリカでは人種差別的だということで問題視されたようです。ゴリウォーグの絵は、よく見ると、「ちびくろさんぼ」にも似ています。ゴリウォーグ絵本について、とても参考にさせていただいたサイトが、これです。
http://gollyworld.fc2web.com/history.html
さて、このサイトでゴリウォーグの絵を見ると……! なんと、ドビュッシーの「子どもの領分」の表紙の絵に、そっくりではないですか。

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その後、ゴリウォーグ絵本の復刻本の一つ(上の写真)「The Golliwogg’s Circus」も入手しました。この中には、ゴリウォーグが象と登場する絵もあります(なお登場人物はすべて人形で、象も、足の付け根はボタンで留められたぬいぐるみ)。この象、これも「子どもの領分」の表紙のものと、よく似てます。「子どもの領分」の初版の表紙は、ゴリウォーグ絵本を参考に描かれたのだということに、確信が持てました。

さて、一方のCake Walk19世紀末のアメリカで生まれたダンス音楽のひとつで、軽快な2拍子、シンコペーションのリズムに特徴があります。 20世紀初頭には、黒人が登場するヴォードビル・ショーにも用いられ、また、スーザの楽団がイギリスやフランスを訪問したときにも、曲目に組み入れられて演奏されたようです。スーザとその楽団は1900年のパリ万博にも参加していますが、そこでもケーク・ウォーク曲は演奏されたことでしょう。ドビュッシーがそれを聞いたか、それとも、パリやロンドンでヴォードヴィル・ショーを見る機会があったのか、そのあたりはよくわかりません。

いずれにしろ、ラグ・ドールの「ゴリウォーグ」と「ケーク・ウォーク」音楽というふたつの要素を組み入れた「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」という曲、どちらも元をたどればアメリカ文化がルーツだったわけです。

今、この曲を再度練習中ですが、目標として、ゴリウォーグ人形のひょうきんな動きを表現できる境地にまでなりたいもの。また同時に、19世紀末~20世紀初頭のポピュラー音楽としてのCake Walk曲を、アレンジも入れて自在に弾いてみたいというのも目標。こちらは、ラグタイムの楽譜集やインターネットでのダウンロードで相当入手できるので、物色中です。

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なお、後日ゴリウォーグ人形の写真をアップした記事はコチラ。
http://elmtree.air-nifty.com/ragromenade/2008/12/post-4a8b.html





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コメント

ゴリウォッグの考察を大変興味深く拝見しました。よく判りましたが、象のほうはどうなのでしょうか?
子象の行進という曲がありますが、ラグタイム風です。象のイメージと曲のイメージが重なるところがあるのでしょうか?
ところでこの曲はジョプリンのエリートシンコペーションズにそっくりだと思いませんか?私は以前から気になっていました。

投稿: 鈴木 | 2008/06/20 19時57分

鈴木様、コメントありがとうございます。

「小象の行進」ですが、ヘンリー・マンシーニの曲ですよね? 改めてYouTubeなどで聞いてみましたが、確かにラグタイム風、というか、これはブギウギだと思います。
ブギウギはラグタイムの少しあとの時代に出てくるブルースの一種ですが、ラグタイムの2拍子の左手和音をバラしてアルペジオ風にすると、ブギウギっぽくなります。どちらも、イチニ、イチニの「行進」に使えますね。ラグタイムの左手は、行進曲の2拍子そのものですし。
なお、アニメ「となりのトトロ」の猫バスの曲もブギウギ風の出だしです。「小象の行進」のブギウギも、象のイメージというよりは、「行進」のイメージで使われているのではないでしょうか。

この2曲の意外な共通点、おかげさまで、今初めて気づきました!

エリート・シンコペーションとの共通点、考えてみたことはなかったですが、弾きくらべてみます~(^^♪


投稿: ラゲディ・アン | 2008/06/21 00時29分

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