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John Stark氏の広告文「Sun Flower Slow Drag」について

P1010075_2 前回の日記に書いたスコット・ジョプリンの「Maple Leaf Rag」の楽譜。

裏表紙にある文章を訳してみました。
「Sunflower Slow Drag」(1901)という曲の素晴しさをアピールして、
楽譜を買ってもらうための宣伝文です。

この曲は、Scott JoplinとScott Haydenの共作。
Scott Haydenは、ジョプリンの弟子的存在ですが、
ジョプリンは当時、Haydenの義理の姉(亡くなった兄の未亡人)と恋愛中か結婚した頃で、
結婚後は、二人は親戚同士という関係です。

スコット・ジョプリン研究家Edward Berlin氏の著書「King of Ragtime」の記述からしても、
Stark出版のJohn Stark氏自身の文章と思ってよいかと思います。
(Berlin氏の本には、これに似た宣伝文の抜粋が引用されています。)

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第二級殺人!


 私の知っている女性ピアニストに、「Maple Leaf Rag」, 「Sunflower Slow Drag」, 「The Entertainer」, 「Elite Syncopations」をレパートリーにしてる人がいました。彼女はそれらの曲を自分なりに弾き、自分や他の人の楽しみのために何度も何度も弾いていました。しかしある時、彼女はそれを「過去」のものにしました。ある日彼女はたまたまある店に立ち寄ったのですが、そこでジョプリンが「Sunflower Slow Darg」を弾いていたのです。彼女は瞬時に、その独創的で魂のこもった物語に衝撃を受け、そして、さてどうなったでしょう? 彼女は誰かに、その曲が何であるかを聞きました。彼女はその曲を12ヶ月にわたって繰り返し弾いていたのに、その曲に到達していなかったのでした。彼女は家に帰り、あたかも初めて見た曲であるかのように、その曲を練習しました。その曲は新しい人生を呼吸し、新しい言語を話し、それは他の3曲についても同様でした。これに注意しましょう―常につきまとう罪は、これらクラシックの曲を早く弾きすぎることなのです―これらの曲と市場に出回っているラグ(Rags)・ドラッグ(Drags)・ジャグ(Jags)の洪水とに共通するものはありません。私たちはここで特に「Sunflower Slow Drag」についてお話したいと思います。
この曲が世に出たのは、スコット・ジョプリンの求婚が最高潮だったときであり(注1)、彼の足が地につかないような時期でした。当時、彼のガチョウたちはすべてハクチョウであり、ミシシッピの水の味は蜂蜜のようでした。彼のあふれるばかりの豊かさは、モンロー・ローゼンフェルド(注2)の最も活気あるリズムモードを「憂鬱な天気」にしてしまい、サム・スペックの曲をどうでもいいものにしてしまいました。もし言葉のない歌が存在するとしたら、それはこの曲です。誰かがこの曲を弾くとき、地面に耳をつけてごらんなさい。あなたはスコット・ジョプリンの心臓の鼓動を聞くことができるでしょう。「メープル・リーフ」に代わるような曲はないと多くの人は言いますが、メープルのあの衝撃を湧き起こした我々自身が保証をもってここで言いたいのは、「Sunflower Slow Drag」は、自分の心を探るような旋律の、継続性においてより優れ、進行についてさらに精巧をきわめ、メープルを上回るほどの曲だということです。どちらの曲も、最も骨の折れる研究や練習に値する作品です。これらの曲は、ショパンが不滅であるように、時代遅れになることなどないでしょう。これらの曲は、不変に存在する丘と同様に不滅です。少なくとも現代の人々が関わる範囲において。 (注3)

さあ、「Sun Flower Slow Drag」を手に入れましょう。

(注1) Scott Joplinが、Scott Haydenの義理の姉と結婚したのはこの頃。
(注2) 作曲家&新聞記者(1861~1918)
(注3) この曲はScott Haydenとの共作なのに、広告にはHaydenの名は一切出てこない。 

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……って、
私もできることなら、
ふらっと立ち寄った店で、
ジョプリンその人の演奏を聞いてみたいものですが……。

1140_1_2 女性ピアニストのエピソードは、実話かもしれないし、
多少の誇張や創作があるのかもしれません。
でも、「スターク出版のラグタイムは巷のラグタイムとは違うハイクラスのクラシック・ラグである」というスターク氏の心意気がよく伝わってきます。
また実際に、ジョプリン自身が弾いたラグタイムは、
早弾きや喧騒のラグタイムとは異なり、
ゆったりしたテンポの、味わいのあるものだったのかもしれません。

タイトルは、「第二級殺人」とブッソ~ですが、
曲想を殺して演奏するのは、それに値する、ということなのかと思いました。
これについては、RagtimeCaveさんが的確な考察をしてくださいました。
辞書によると、第一級殺人は、「情状酌量の余地なく死刑が科せられ」るのですが、
第二級殺人は、「情状に幾分酌量の余地があり、懲役刑が科せられる」のだそうです。
スタークは広告を見た人に、
「あなたは、まだ酌量の余地があります。だからサンフラワーを買って練習しなさい」
と言いたかったのだろう、という考察です。
なるほど、と膝を打ちたくなる名解釈でした。

この曲は本当に優雅なメロディーの曲ですが、
それをスコット・ジョプリンのロマンスに結び付けての宣伝文句。
これを訳したときから、この曲を弾くのにもはまってしまいました(笑)。
スターク氏の言葉の魔術、100年後も解けておらずcoldsweats01

なお、楽譜はIndiana Universityのサイトからダウンロードできます。
http://webapp1.dlib.indiana.edu/sheetmusic/devincent.do?&id=LL-SDV-042074&q1=LL-SDV-042074&sid=af20d80ad8bc5cc0997c7298ede081f4

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コメント

ジョプリン自身の演奏のCD(レコードのCD化かピアノロールか?)を持っています。
たしかに穏やかで正確な演奏で、メープルと同じ程度の名作だとは思いますが、
この宣伝文「自分の心を探るような旋律の、、、云々」はちょっと云いすぎかなあ。
  
その頃は著作権なんて考えは有りませんから、演奏家(ここに出てくる女性ピアニストもその一人)は聞き覚えを自分流のスタイルで勝手に演奏していたのでしょうね。
曲芸的な強烈な演奏を誇る風潮も有ったのでしょう。ヨーロッパのクラシックに造詣の深いジョプリンには我慢ができず、憤慨していたのでしょうね。面白いですね。
 
私、個人的には、当時の黒人奏者のホンキートンクの方が好きなのですが、、、
  
ところで、題名が Sun Flower なのか  Sunflower なのか、気になります。
ここに紹介された表紙は後者ですが、5線譜の上に書かれたタイトルは前者です。
 
その他の出版物やCDやレコードなどは前者が多いようですが、インターネットでは後者で書いた記事も結構多いようです。
 
グーグルで検索すると「もしかして sunflower ? 」なんて云われますから、現代の英語では後者なのでしょう。

投稿: すずき | 2008/08/22 20時32分

すずきさん、コメントありがとうございます。
ジョプリンはレコード録音はしていないので、自身の演奏CDは、ピアノ・ロールですね。端正な演奏にちょっとアレンジもあったりして、原作者の演奏として貴重ですよね。
ジョン・スターク氏は、美辞麗句を使うのがお好きだったようで、文章はどこも誇張に満ちています。宣伝文がこういうスタイルなんですね。女性ピアニストの話も、創作が入ってるかもしれません。
でも、おっしゃるように、曲芸的な演奏が氾濫していて、それとスターク出版のクラシック・ラグとは一線を画したいという意思が、強く読み取れますね。
「Sunflower」ですが、ご存知のように今の英語ではワンワードですよね。この楽譜では、ヒマワリの絵がある表紙カバーではワンワードなのですが、楽譜1ページめの上にあるタイトルは、「Sun Flower」と分けて書かれています。スターク出版の楽譜は結構スペリングミスが多く、このくらいの不一致は、ありがちかと思います。
100年経っても、いろいろ想像させてくれて、
本当に楽しいですね。

投稿: ラゲディ・アン | 2008/08/26 09時59分

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