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池宮正信&レ・フレール公演

7月24日は、オーチャードホールにて、
「Bravo! Piano 2009 Les Freres & Masanobu Ikemiya」の公演でした。

当日は各地から、ラグタイムがご縁で知り合った仲間が駆けつけます。
オーチャードホールに近づくにつれ、携帯電話が鳴る、鳴る……。
待ち合わせた人たちと会場に入るや、
即座に池宮さんの新発売CDをゲットしました。

ファースト・ステージに現れた池宮正信さんは、
白い衣装が神々しく、あたかも天上人のごとし。
そして奏でるは、「Maple Leaf Rag」、そして「The Entertainer」。
軽妙で、洒脱で、達観した遊び心があり、まさに天上の音楽~。
もう私には、ラグタイムの人間国宝に感じられました。

さて、そのあとが「ラグタイム講座」。
ピアノで実例を弾きながら、
普通の曲がどのようにラグタイムにアレンジされ、
ラグタイムがどう生まれていったのかというのを、
まざまざと解説してくれました。 
ラグタイムを知らない人には、
格好の入門になったことでしょう。

そのあとの「Chevy Chase」では、
観客に拍手のタイミングを説明し、
弾きながら笑いながらのコール&レスポンス。
二階席の隅々まで満員の会場全体を巻き込んで、
これも実に壮大で、楽しいひと時でした。

次はクラシックとラグタイムの関係をトークしたあと、
十八番の「Humoresque Rag」。
随所に出てくるクラシック曲の断片は、
ベーゼンのグランドの底力を見せつける素晴しさで唸りました。

その後は、舞台の大型スクリーンに映像を写しながら、
静かな3曲。
現代作家ボルコムの「Graceful Ghost Rag」、
ショパンの「別れの曲」とシューマンの「ショパン」(こんな曲、あったのですね!?)、
19世紀の作曲家ゴッドシャルクの「Souvenir do Porto Rico」。

この3曲の演奏時、舞台の大型スクリーンには、
メイン州自宅農園で池宮さんが
自然農法で作業する場面が次々に映し出されました。
また鍵盤を真上から横から次々に映し出すのも、実にありがたい趣向でした。 

さて、次いではもう1曲ゴッドシャルクで「Union」。
南北戦争時の北軍を応援する曲とのことで初めて聞きました。

池宮さん最後の曲は、おお、なんと!
敬愛するZez Confreyの「Dizzy Fingers」でした。
練習曲のようなシンプルな曲ですが、それを猛烈な速さで弾く曲です。
間にクラシックのいろいろな曲の一部をはさむアドリブも、
この曲ではよく行われますが、それもバッチリ!
いや~、この曲を生で聞いたのは初めて!
得した気分でした。

あっという間に1時間以上が経過していました。

そのあと、レ・フレールのステージ。
これはすごいパワーでした。
弟・圭土さんの「Boogie Woogie Stomp」は更なる熱演。
あの少年のように細い体と腕で、
体重が2倍くらいありそうなオッチャン(Albert Ammons)の曲を弾いちゃうのだから驚き。

札幌のラグタイム仲間の方が弾いている「For Kids」のホンモノも実によかったです。
スクリーンににレ・フレールが学校訪問したときの子どもたちの映像も流され、
子どもって本当にブギウギやノリノリの音楽が好きなんだな~と思いました。

さてさて、最後のアンコール局面で池宮さんも再登場。
三人で、Maple Leaf Ragの「ぐるぐるピアノ」。
ステージでということを越え、
池宮さんの純粋にうれしそうな顔を見ていて、
私もうれしくなりました。
この「ぐるぐるピアノ」、やってみたいものですね。
しかし昨日のステージはケーク・ウォーク風の走りも登場、
半分スポーツですね、これは。

ということで、熱いひと時が終わりました。
クールダウンするための二次会場にはなんと「神」も降臨。
そう、楽屋から池宮さんご夫妻がちょっと立ち寄ってくださったのです!
おおいなる感激でしめくくられた一晩でした。

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「ラグタイムとオバマ大統領」を見て

米国在住のピアニスト池宮正信さんが「ラグタイムとオバマ大統領」なる題で、テレビ出演するという。NHK教育の「視点・論点」という10分番組。放送は2009714日、夜1050分から……。池宮さんのHPでこの情報を見つけた時は、ラグタイムというマイナーなものと、オバマ大統領という最もホットでメジャーなものとを結びつけた演題の壮大さに驚くとともに期待もふくらみ、放映の日を心待ちにした。

実は、昨秋オバマ大統領が選ばれたとき、ラグタイム贔屓の私は、何となくスコット・ジョプリンに重ねて思いを馳せてしまった。両者の違いはあまりにも大きいが、百年を隔て、マイノリティの黒人が歴史のヒノキ舞台に登場したという点では共通しているのではないか? 池宮さんは一体どんな話をしてくれるのだろう?

 さて放送当日、画面に現れた池宮さんは、白ジャケットにピンクのシャツ、格子模様の白ベストに、ドット模様に見える白ネクタイという服装で登場した。「自分はアメリカに長く住むピアニストなのでこんな変な格好ですが」と自ら称していたが、学者や企業人などの堅気の人とは一線を画し、お洒落で品位に満ち、そして陽気と言えるくらい明るい、素敵なスタイルだった。

 まず、「The Entertainer」の曲のさわりが流れた。首で軽くリズムをとり、思わずほほえむ池宮さん……。

「楽しい音楽でしょう? これは映画スティングのテーマにもなっているジ・エンターテイナーです。ラグタイムの王様といわれるスコット・ジョプリンが、1902年にセントルイスで書きました。ジョプリンは奴隷の親から生まれ、他の黒人同様、社会のどん底からスタートし、ブレークした音楽家です。」

 そのあと、ラグタイムの定義の説明が続く……。

「ラグタイムは、黒人たちが、耳にしたことのあるメロディーを自分たちなりに遊んで作り出したのが始まりで、いろんな要素が含まれています。アメリカは先住民以外は移民の国だから、いろんな国から持ち込まれたさまざまな音楽、文化、考え、思想などが入り混じる、多様な背景があります。それをベースに、白人のマーチなどの音楽と、黒人の豊かなアフリカ的リズム、エネルギーが結合して、ユニークな、黒人でもない、白人でもない音楽が出来上がりました。……ですから、ラグタイムは誰もが親しみやすく感じ、誰からも受け入れられるのだと思います。」

 このあと簡単にジャズやブギウギの解説があったあと、いよいよ一転して本題。オバマ大統領に及ぶ前段階として、マーティン・ルーサー・キング牧師が1960年代に立ち上がった話が出る。

We Shall Over Come~、We Shall Over Come~」

アメリカ公民権運動の際にテーマソングのように歌われた「勝利を我らに」の冒頭が、池宮さんの朗々としたアカペラで流れる。

 池宮さんはかねてから、「愛、平和、非暴力」をテーマにかかげているが、キング牧師の運動はまさに、平和的な行進を通じ、非暴力をもって、差別待遇撤回の法律を獲得したものだった。

それから50年経って登場したオバマ大統領……。彼が選ばれたということは、差別や偏見が弱まり、黒人層や他のマイノリティにとって希望のもてる時が来たことだ、と言う池宮さん。そして一言「全然暗いところがないのが、彼のよさのひとつです」。これは本当にそうだ。陽気というほどでもないが、ポジティブで、明るく、悲観的なところが感じられない。そしてここが、池宮さんの言わんとする、ラグタイムに通じるところだった。

「私にとって、ラグタイムの魅力のひとつは、しいたげられた黒人たちが、その苦しみのマイナスを、ラグタイムという明るいポジティブなエネルギーに転換させたことです。どうしようもない逆境の中で、社会をののしったり、人生を嘆いたりするよりも、今、みんなで楽しくラグタイムで元気づけ合おう、と前向きなところが素晴しいと思うのです。」

公民権運動の非暴力もここに結びつく。ラグタイムを生み出した黒人たちは、テロや他者への攻撃に走るよりも、苦しみをラグタイム音楽というポジティブで明るいエネルギーに変え、日々の生活に耐えていったのだ。そしてオバマ大統領はやはり持ち前の明るい性格で、「自分のできることからしよう」と、人々に新しい、持続可能な、平和な世界を目指そうと呼びかけている……。これだったのか、オバマ大統領とラグタイムを結ぶ接点! 苦しみや逆境の只中にあっても、それを嘆くことにエネルギーを注ぐのでなく、ささやかでも自分の出来ることをして耐えながら、喜びと希望のエネルギーに変えていくこと。これが「ラグタイムとオバマ大統領」の主旨なのだ。

これはマイノリティの人々の生きるすべだったかもしれない。しかし今やすべての点で行き詰った大国アメリカ自体が、価値観を変え、その知恵に学ぶ時代が到来したのだろう。

私などは深く意味を考えることもなく、ただひたすら好きで弾いてきていたが、ラグタイム成立の現代的意味を、この番組で池宮さんに改めて教えてもらったように思った。そういえば、ジョプリンの「Wall Street Rag」は楽譜の中にストーリーが書いてある。簡単に要約すると、株価の上下に一喜一憂する仲買人たちが、ニグロのラグタイムを聞いて憂さを忘れて踊り出す、という内容だ。まさに、池宮さんの話してくれた内容そのものだ。ラグタイム音楽には、憂鬱やつらい気分をも明るく転換し、リフレッシュしてくれる力があるのだと思う。

先の見えない時代だが、それだからこそ、耐える力を与えてくれるラグタイム音楽で周囲の人も巻き込んで楽しいひと時をもち、明日へのエネルギーにつなげていきたいものだと改めて思った。

Viva ragtime!

*この文章は「札幌ラグタイムクラブ」会報第18号(2009年Summer号)に掲載されたものです。    

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池宮正信さん、テレビ出演予定

来週から、池宮正信さんとレ・フレールの国内ツアーが始まります。
久々に池宮さんのHPをチェックしたら、テレビ出演情報が!
NHK番組で、標題は「ラグタイムとオバマ大統領」!!

あまりの驚愕と喜びに平常心を失い、
日程の数字が目に入っても、
もう放送が終わったのか、これからなのか、
即座に判断がつかないほどでした。
大丈夫、これからです!

【視点・論点】 NHK教育テレビ・NHK総合テレビ
テーマ:「ラグタイムとオバマ大統領」
放送予定:2009年7月14日(火)NHK教育テレビ 22:50~23:00
再放送予定:7月15日(水)NHK総合テレビ 04:20~04:30

放送後に、放送原稿が「視点・論点」のサイトに掲載されるそうです。

私は、昨秋オバマ大統領が選出されたとき、
なぜかスコット・ジョプリンの顔写真が被って見えるような心持がしました。
比較するには客観的にはあまりに違いの多い両者かもしれませんが、
百年を隔てながら、アフリカ系アメリカ人として「白人社会」のなかで実力を認められて歴史のヒノキ舞台に登場した点は、
共通していると思うのです。
ラグタイムを最もよく理解する日本人であり、
長らくアメリカ社会で暮らす池宮さんがどんなお話をされるのか、
今からワクワク、大変楽しみです。

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ジョシュア・リフキンさん、新聞記事に

「日経新聞」2009年7月5日(日)に、
ジョシュア・リフキンさんへのインタビューが載っています。
バッハ演奏新解釈における指揮者としての業績とともに、
ラグタイム・リバイバルブームの火付け役、
バロック風ビートルズの演奏者などの側面を紹介していて、
よくぞ取り上げてくれたと日経の記者さんに感心。

ラグタイム部分を引用しましょう。
「スコット・ジョプリン再評価アルバムでラグタイム音楽ブームに火をつけ、このときはジョージ・ロイ・ヒル監督が映画「スティング」にラグタイムを採用するという副産物がついた」

ジョシュア・リフキンさんというのは、
スコット・ジョプリンの音楽を、
クラシックとして楽譜通りに弾いたレコードを、
1970年代に続けて発売し、
ラグタイム音楽リバイバルブームを巻き起こした音楽学者さん……。
というのは一般的な説明しか過ぎず、
ラグタイムに興味を持つ者にとっては、
何はともあれ「神」そのもの。
彼にとってラグタイムというのは自国アメリカの伝統音楽で、
幼い頃から親しみがあったものでした。
一方、ビートルズは英国音楽(といっていいかな?)であり、
このアルバム自体も自らの発想ではなく依頼のもの。
その辺りを鑑みて、もう少しラグタイムについて突っ込んでほしかった……。
などというのは、贅沢というもの。

日本のメジャーな新聞に、
「ラグタイム」という単語が載ること自体、非常にレアで、
これはまさに特記すべき事件でした。

090705018

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