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「ラグタイムとオバマ大統領」を見て

米国在住のピアニスト池宮正信さんが「ラグタイムとオバマ大統領」なる題で、テレビ出演するという。NHK教育の「視点・論点」という10分番組。放送は2009714日、夜1050分から……。池宮さんのHPでこの情報を見つけた時は、ラグタイムというマイナーなものと、オバマ大統領という最もホットでメジャーなものとを結びつけた演題の壮大さに驚くとともに期待もふくらみ、放映の日を心待ちにした。

実は、昨秋オバマ大統領が選ばれたとき、ラグタイム贔屓の私は、何となくスコット・ジョプリンに重ねて思いを馳せてしまった。両者の違いはあまりにも大きいが、百年を隔て、マイノリティの黒人が歴史のヒノキ舞台に登場したという点では共通しているのではないか? 池宮さんは一体どんな話をしてくれるのだろう?

 さて放送当日、画面に現れた池宮さんは、白ジャケットにピンクのシャツ、格子模様の白ベストに、ドット模様に見える白ネクタイという服装で登場した。「自分はアメリカに長く住むピアニストなのでこんな変な格好ですが」と自ら称していたが、学者や企業人などの堅気の人とは一線を画し、お洒落で品位に満ち、そして陽気と言えるくらい明るい、素敵なスタイルだった。

 まず、「The Entertainer」の曲のさわりが流れた。首で軽くリズムをとり、思わずほほえむ池宮さん……。

「楽しい音楽でしょう? これは映画スティングのテーマにもなっているジ・エンターテイナーです。ラグタイムの王様といわれるスコット・ジョプリンが、1902年にセントルイスで書きました。ジョプリンは奴隷の親から生まれ、他の黒人同様、社会のどん底からスタートし、ブレークした音楽家です。」

 そのあと、ラグタイムの定義の説明が続く……。

「ラグタイムは、黒人たちが、耳にしたことのあるメロディーを自分たちなりに遊んで作り出したのが始まりで、いろんな要素が含まれています。アメリカは先住民以外は移民の国だから、いろんな国から持ち込まれたさまざまな音楽、文化、考え、思想などが入り混じる、多様な背景があります。それをベースに、白人のマーチなどの音楽と、黒人の豊かなアフリカ的リズム、エネルギーが結合して、ユニークな、黒人でもない、白人でもない音楽が出来上がりました。……ですから、ラグタイムは誰もが親しみやすく感じ、誰からも受け入れられるのだと思います。」

 このあと簡単にジャズやブギウギの解説があったあと、いよいよ一転して本題。オバマ大統領に及ぶ前段階として、マーティン・ルーサー・キング牧師が1960年代に立ち上がった話が出る。

We Shall Over Come~、We Shall Over Come~」

アメリカ公民権運動の際にテーマソングのように歌われた「勝利を我らに」の冒頭が、池宮さんの朗々としたアカペラで流れる。

 池宮さんはかねてから、「愛、平和、非暴力」をテーマにかかげているが、キング牧師の運動はまさに、平和的な行進を通じ、非暴力をもって、差別待遇撤回の法律を獲得したものだった。

それから50年経って登場したオバマ大統領……。彼が選ばれたということは、差別や偏見が弱まり、黒人層や他のマイノリティにとって希望のもてる時が来たことだ、と言う池宮さん。そして一言「全然暗いところがないのが、彼のよさのひとつです」。これは本当にそうだ。陽気というほどでもないが、ポジティブで、明るく、悲観的なところが感じられない。そしてここが、池宮さんの言わんとする、ラグタイムに通じるところだった。

「私にとって、ラグタイムの魅力のひとつは、しいたげられた黒人たちが、その苦しみのマイナスを、ラグタイムという明るいポジティブなエネルギーに転換させたことです。どうしようもない逆境の中で、社会をののしったり、人生を嘆いたりするよりも、今、みんなで楽しくラグタイムで元気づけ合おう、と前向きなところが素晴しいと思うのです。」

公民権運動の非暴力もここに結びつく。ラグタイムを生み出した黒人たちは、テロや他者への攻撃に走るよりも、苦しみをラグタイム音楽というポジティブで明るいエネルギーに変え、日々の生活に耐えていったのだ。そしてオバマ大統領はやはり持ち前の明るい性格で、「自分のできることからしよう」と、人々に新しい、持続可能な、平和な世界を目指そうと呼びかけている……。これだったのか、オバマ大統領とラグタイムを結ぶ接点! 苦しみや逆境の只中にあっても、それを嘆くことにエネルギーを注ぐのでなく、ささやかでも自分の出来ることをして耐えながら、喜びと希望のエネルギーに変えていくこと。これが「ラグタイムとオバマ大統領」の主旨なのだ。

これはマイノリティの人々の生きるすべだったかもしれない。しかし今やすべての点で行き詰った大国アメリカ自体が、価値観を変え、その知恵に学ぶ時代が到来したのだろう。

私などは深く意味を考えることもなく、ただひたすら好きで弾いてきていたが、ラグタイム成立の現代的意味を、この番組で池宮さんに改めて教えてもらったように思った。そういえば、ジョプリンの「Wall Street Rag」は楽譜の中にストーリーが書いてある。簡単に要約すると、株価の上下に一喜一憂する仲買人たちが、ニグロのラグタイムを聞いて憂さを忘れて踊り出す、という内容だ。まさに、池宮さんの話してくれた内容そのものだ。ラグタイム音楽には、憂鬱やつらい気分をも明るく転換し、リフレッシュしてくれる力があるのだと思う。

先の見えない時代だが、それだからこそ、耐える力を与えてくれるラグタイム音楽で周囲の人も巻き込んで楽しいひと時をもち、明日へのエネルギーにつなげていきたいものだと改めて思った。

Viva ragtime!

*この文章は「札幌ラグタイムクラブ」会報第18号(2009年Summer号)に掲載されたものです。    

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