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ケーク・ウォークあれこれ

 いつかやってみたいと思っていたことを、ピアノ発表会で実現しました。ドビュッシーの「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」と一緒に、ホンモノのケーク・ウォーク曲を並べて弾くという企画……。11月8日、BXホールにて「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」(1908)と「Smoky Mokes-Cake Walk and Two Step」(Abe Holtzman, 1899)を続けて弾きました。


「ケーク・ウォーク」とは何か

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 ケーク・ウォークというのは、19世末から20世紀始めにかけて流行したダンス音楽のひとつです。音楽は独特のシンコペーションのリズム、ダンスは足を前に高く上げて踊るスタイルでした。ルーツは黒人たちのダンス音楽で、この音楽で踊るコンテストも行われ、優勝者がケーキをもらったからケーク・ウォークと呼ばれるようになったというのが通説です。

 ところで、ケーク・ウォークってどんな曲だろうと、楽譜を集めているうちに気づいたことがありました。1899年に出版された楽譜が大変多いのです。もちろんすべて調べたわけではないですが、1899年に「ケーク・ウォーク」がブレークしたことは容易に想像がつきます。この年をケーク・ウォーク発生の年とする説明もあるようです。
 なお、当時の楽譜は今のピアノピースのような冊子ですが、ケーク・ウォークを名乗る楽譜は、その表紙の絵や写真がほとんどが黒人の顔だったり、姿だったり、「黒人」を強調しているのです。そして作曲者は、例外なく白人です。だから思うのです。黒人の音楽を強調した白人の商業音楽、これがケーク・ウォーク・ブームだったのではないか、と。

ヨーロッパに渡ったケーク・ウォーク
 このケーク・ウォーク曲を、ヨーロッパに渡ったジョン・フィリップ・スーザの楽団も演奏しました。その後、あるいはそれと前後して、パリやロンドンなどの夜の酒場でも、ダンサーたちがこのダンスを盛んに踊ったのではないかと思います。スーザの楽団は1900年のパリ万博でケーク・ウォーク曲を演奏したとのことで、ドビュッシーもどこかでこの音楽に出会っていたのでしょう。「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」が入ったピアノ組曲「子どもの領分」("Children's Corner")がパリで出版されたのは1908年で、1899年のブレークから9年後のことになります。

どんなダンスだったか

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 ところで、ケーク・ウォークとはどんなダンスだったのか? 背中を反らし、膝を曲げた足を交互に、前に高く上げて踊るのた特徴だったようです。この様子は、楽譜の表紙にもしばしば描かれています。それがどう連続していたのか? 典型的と思われる映像が映画「桑港」(原題San Francisco1936)に出てきます。舞台は1906年、まさにラグタイムやケーク・ウォークが真っ盛りではやっていた時代、サンフランシスコ地震を背景に、当時のこの街のショービジネスの世界を描いた映画で、クラーク・ゲーブル主演です。この映画では夜のクラブのショーで黒人たちが集団で踊るシーンが見られます。その他、YouTubeなどでも古い映像が見つかると思います。

 「ゴリウォーグ」とは?

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 これは、本来はケーク・ウォークとは全く関係ない黒人の姿の人形です。イギリスの絵本作家アップトンによる人気のシリーズの主人公でした。アップトンは幼少時にアメリカに暮らしていたことがあり、この本のアイディアを練るとき、屋根裏にあった古い黒人のラグドール(ぼろきれ人形)から主人公を着想したといいます。イギリスではたいへん流行したようで、絵本のほかにも人形やキャラクターグッズが発売されました。ドビュッシーには英国趣味があったと言われますが、「子どもの領分」の原題がフランス語ではなくて英語であることからも、それは想像できます。娘のシューシューは、当時のイギリスの子どもたちと同様に、この絵本や人形で遊んでいたのかもしれません。なお、出版当時の「子どもの領分」(Children's Corner)の表紙には、このゴリウォーグの顔と思われる風船(?)が、象の人形とともに描かれています。

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 なお、上の写真がフランスで出版された「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」の写真。版を重ねていて1940年台のものです。また下の絵本は復刻本ですが『ゴリウォーグのサーカス』というシリーズ絵本の中の一冊。ゴリウォーグ人形が他の人形たちと一緒にサーカスで活躍する物語です。中央の黒い人形が、リーダー役のゴリウォーグ君。最初に楽譜をオークションで入手、この「風船」な何だろうと思っていたのですが、のちに絵本を手にしてみて、「これは、明らかにゴリウォーグだ~!」と確信できました。それにしても、「Children's Corner」の表紙、なんともとぼけた絵で、おかし味があります。誰が描いたのでしょう? ひょっとしてドビュッシー自身???

弾き終えてみて

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 さて、この2曲を並べて弾いてみると、「タカンタンタン」という特徴的なシンコペーションは共通するものの、ドビュッシーのほうは、それがさまざまな表現記号で指示されていて、より複雑でニュアンスに富んだ表現になっているのがわかりました。やはりドビュッシーは天才。これは芸術だ! 一方アベ・ホルツマンの「スモーキー・モークス」はシンプルな楽譜表記。これって演奏者の手腕が別の意味で問われます。これが録音された数少ないピアノソロのCDを聞いてみましたが、楽譜どおりになんて弾いていません。メロディーは高いポジションでオクターブ奏法、華麗な装飾音を入れたりと、アレンジするのが当然という感じ。今回はアレンジの余裕なんてとてもとても……。とにかくまずは、楽譜どおりの「ケーク・ウォーク曲の原型のひとつ」を、ドビュッシーの「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」と並べてみよう、そういう思いで弾きました。
 発表会のあと、面白かった!という感想を何人かの方からいただき、感謝。「スモーキー・モークス」を自分なりのアレンジを加えて弾くという、次なる目標もできました!

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