映画「ベンジャミン・バトン」とラグタイム

「おくりびと」がアカデミー賞外国語部門で受賞して話題になっていますが、 美術賞など三部門を受賞した「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」に、 スコット・ジョプリンの曲が使われています。 Granpa's Spellsさんから情報をいただき、さっそく見てきました。

おお!これは、すごい! 舞台が始るのは1918年のニューオーリンズ。 終戦に湧く町に流れるのは「聖者が町にやってくる」 そして生後すぐの主人公が捨てられる施設から聞こえてくるのが、 優雅なピアノのラグタイム……。これがスコット・ジョプリンの、 「Country Club」~「Elite Syncopations」~「The Chrysanthemum」 おおお~、豪華!

これだけでもラグタイム好きには堪えられないのに、 施設に入居している老婦人から主人公が習う曲、 それがジョプリンのラグタイム・ワルツ「Bethena」なのです この曲は映画の最後まで、 ストーリー上も重要な役割を担っています。 その他「Baisin Street Blues」「Billy Baily」「I Could be with you」など、 ニューオーリンズジャズもたくさん。 音楽が時代の経過を表すものとして、 綿密に計算して使われています。 それは調度品や服装も同じ。 本当に凝っています。

ストーリーはフィッツジェラルド原作で、 老人として生まれた男が、 80歳で人生を終えるまでに、 どんどん若返っていくというシュールなものですが、 この信じられない設定が全く荒唐無稽でなく、 それどころかリアリティーをもって迫ってくる、 ヒューマン・ストーリーです。

「Bethena」がメジャーに脚光を浴びた映画として、 私には記念碑的存在となるでしょう。 しかしラグタイムに特に興味がなくても、 心から感動できる映画だと思います 若返った主演のブラッド・ピットが、 ジェームス・ディーンのようにかっこいいオニイチャンになるのも、 見もの。

なお、2枚組みのサントラCDには、 ベシーナが収録されています。 http://www.universal-music.co.jp/jazz/compilation/benjamin_button/index.html

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映画「ヤング@ハート」

P1010125   「ヤング@ハート」というドキュメンタリー映画を見ました。
(まだロードショー中なので、ネタバレ困る方は読まないでくださいませ~)

「ヤング@ハート」は、アメリカのアマチュア・コーラスグループの名前。
それもただのコーラス・サークルじゃない。
平均年齢80歳でロックンロールまで歌うグループ。
おじいちゃん、おばあちゃんが、本気でシャウトしちゃうんです!
そのエネルギー、迫力、ノリ、歌唱力はホンモノですごい。
コンサートはホールが満員御礼、 ヨーロッパツアーまでしています。

元気いっぱいの人ばかりではない。
病気で入退院を繰り返す人、 闘病から復活してきた人、 老人ホームから通う92歳、 コンサート直前に天国に行く仲間もいたり……。
でも、腰や膝が痛くても、歌っているときは忘れていられるのです。
一方、元空軍パイロット氏は今でもドライブが得意で、 メンバーをピックアップしての送迎係。 また元海兵隊員氏は80歳の今も頑健そのもので「彼女」もいたり……。

でも、みんなコーラスで歌うことは生きがい。
それは、指導者ボブによる部分も大きいようです。

ボブは中年男性ですが、選曲・指導・コンサートの手配から、 メンバーの心のケアまですべてしています。
いわば、このサークルの「先生」。
その指導法も型破り。
高齢者集団なのに「健康増進コーラス」ではなくて、
手加減なしに、ロックの新曲・難曲をどんどん持ち込んでくるのです。

一方、参加者たちは根っからのロック好きというわけではなし。
普段はオペラを聴いたり、クラシックを聞いたり、教会の聖歌隊で歌う人だったり。
ロックの新曲には、最初みんな面食らい、なかなか乗れない、歌詞が覚えられない……。
ああ、これは自分のゴスペルレッスンをホウフツとさせるかも……。
ところが、ボブがソロ役を決め、繰り返し練習するうちに、
すっかり自分ものになっていく過程がすごいのです。
練習用CDを渡されて、「これを聞くときは、光る面を下に入れるのか、それとも上か?」
なんて確認するお年寄りたちが、 コンサート当日にはリズムに乗りながら歌い、シャウトするまでになってしまう。

病気で練習を休むと、「ボブは厳しいから、ソロパートを取り上げられてしまう」と、 青い顔をして家族にかかえられながらレッスンに参加するメンバー。
コンサート当日は、 「観客をノックアウトしてやるんだ」と意気込むメンバー。

単に歌うことだけが楽しいからだけでは、ここまでいかないと思いました。

コンサートという目標があり、他人の目があり、
未知の曲に挑戦という意気込みがあり、
観客の声援という期待もあり、
それが、どれだけこの人たちの励みになっているか。
いや、励み以上の生きる支え。

それは、80歳になっても、90歳になっても、
入退院を繰り返していても、
余命何ヶ月と言われても同じ。
生きる励み、生きる支えは人をかくも生き生きとさせる。
それが伝わってきます。

折しも昨日、ニュースで舘野泉さんの映像を見ました。
脳梗塞の後遺症で右半身の自由を失いながら、
左手のピアニストとして70歳を過ぎて更なる進化をし続け、
「左手」も「両手」も超越した境地で、
聞く人の心を揺さぶるあれだけの音楽を生み出してるという事実。

私も、死ぬまで音楽をやりたいものだな~と再確認。
それも自己満足でなく、人に聞いて楽しんでもらえる音楽、
聞く人の魂に伝わる音楽が目指せればなあ……。
それには、ハートだけなく、技術を磨くことも必要也。
ということで、最後の日まで修行は続く~(笑)。

(写真は三四郎池。本文とは関係ありません)

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映画「プリティ・ベビー」を見て

P1010304 映画「プリティ・ベビー」、
待望のDVDが出たので、見ました。

ジェリー・ロール・モートンをモデルにしたピアノ弾きが登場、
それを影で演奏するのがBob Greeneさんという、
この映画の本筋ではないかもしれない目的で……。

本来は、巨匠ルイ・マルの監督で、
ブルック・シールズのデビュー作、
しかも少女娼婦として登場するスキャンダラスな側面を持つ作品、
というのがこの映画の一般的評判かと思います。

しかし、1917年当時のニューオーリンズの娼婦宿の描写は、
調度や服装、風俗なども含めて圧巻でした。
デカダンス的ノスタルジーと取る人もいるでしょうが、
私にはそれを越える表現に思えました。

また、13歳の娼婦として登場するブルック・シールズ。
その美しさに息を呑む人や、
ロリコン的興味を抱く人もいるのかもしれませんが、
私は逆に、いかにもその年齢の子どもらしい演技をさせていることに、
監督の力を感じました(同監督の作品「地下鉄のザジ」を彷彿とさせます)。
初めてのお客をとる儀式の前後の痛々しさ、
それを無言で受け止める周囲の感情も素直に表現されていました。
娼婦の産んだ子どもたちが文盲のままそこで成長しているという現実も、
また淡々と描写されていました。

映画の最後のシーンはあっけなく、
見終わったあと、いろいろな感情が渦巻き、
その音楽とともに、いつまでもいろいろなシーンが印象に残る映画でした。

ルイ・マルがこの映画について何か語っているか?
探したら、インタビュー映像が見つかりました。
カンヌのビーチで、ブルック・シールズらも含めた席で、
インタビューを受けています。
私のプアで怪し気な耳で聞き取った範囲ではありますが、
面白いことを言っていました。
http://www.ina-festivaldecannes.com/index.php?vue=notice&id_notice=I00019661&lng=en

いわく……。
この映画は「女性の世界」を描いているように見えるけれど、
描かれる娼婦たちも、お客の男性たちも「オブジェ」であって、
「対象物」である点では、男も女も同じだよ。
だたし、例外的な登場人物が二人いる。
それは写真家のベロニックと、ピアノ弾きの男。
とにくこのピアノ弾きは、ジャズの演奏が素晴しく、
自分が今まで作品に採用した中でも最高の音楽だった。
ニューオーリンズの新しい時代を構成する重要な音楽だよ。
とくにジェリー・ロール・モートンがね。
だから、この映画は、
この男性たちの物語なんだよ。
この言葉で締めくくっていました。

「フェミニズム的視点から見たらどうでしょう?」、
と突っ込むインタビュアーをかわすトボケぶりもあったのかもしれませんが、
案外、これが真実なのでしょう。

映画の最後に流れるクレジットにも、
Jelly Roll Mortonに捧げるという文字が、
大きく出ていました。
モートンとその時代へのオマージュ、
そういう目的だったのでしょう。

ということは、私がこの映画を見たいと思った目的も、
案外、的外れではなかったようです。

その音楽、本当に素晴しかったです。
哀愁を帯びた味わいのあるピアノのメロディー、
どうやったら、こんな弾き方ができるようになるのだろうか。
モートンやラグタイム音楽の本質もまた、
再現されているかもしれないと、思いました。

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ハワイアンと炭鉱

数年前、息子を連れて福島いわきに昆虫採集に行きました。
緑深い山から下りてきて国道沿いに入ると
えらい賑やかな入場待ちの車列が……。
それが、巨大施設ハワイアンセンターでした。
なぜこの地に、ハワイアン???
しかもすごく盛況っぽい???

帰りの特急を待つ空き時間に、駅の近くの博物館に行きました。
土地の博物の展示とともに、炭鉱が紹介されていました。
「いわきには、炭坑があったのか……」
と何も知らなかった自分。
その間、息子は炭坑を再現した長いトンネル型展示に迷い込み、
電車の時間は迫る、息子はいないで、焦る焦る……。
見つからないままタクシーだけ確保、
展示館のお姉さんにも協力をお願いして、
ぎりぎりでやっと「確保」した思い出がありました。


しかし、その「ハワイアン」と「炭鉱」が結びついていたとは!

映画「フラガール」。
2006年の話題作でしたが、やっとDVDで見ました。
評判どおりの感動的な映画。
しかも想像よりずっとしっとりとした、好作品でした。
実話をもとにしたストーリーです。

昭和40年、炭坑閉鎖にともなって、
経営する会社がハワイアンセンター構想をぶちあげます。
雇用を確保し、新たなる産業創設を目指しての起死回生策。
しかしあまりに荒唐無稽で、そりゃ、反発を食いますね。
目玉となるハワイアンダンサーを養成する教師として、
東京から元SKDのダンサーが呼ばれ、
炭坑娘たちが応募します。
でも娘たちが裸で(?)踊ったり「ハワイアン推進派」の手先になるなんて、長く炭坑をやってきた親たちには、簡単に許せることでねえべ!

というストーリーです。
主人公貴美子と一緒にダンサー目指して練習してきた女の子、
父親と夕張に流れていくことになる別れのシーン、泣けましたたらーっ(汗)
炭坑娘たちをダンサーに仕立て上げたあとのことですが、
炭坑派にののしられて、
ダンサー平山まどかが東京へ帰ろうとする別れのシーン、
これも素晴しい演出でした。

結局、平山まどかは帰らなかったのでした。
今でも、いわきに留まっているそうです(70歳とか)。
それが映画の最後にテロップで流れ、感動を誘いました。

いわきのハワイアンと炭坑。
この映画のおかげで、しっかり結びついた、
どころか、忘れ難いものになりましたハート

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映画「カッスル夫妻」

51ndhm9ybpl_ss500_ 現代の社交ダンスの基礎を築いたという、
バーノン&アイリーン・キャッスル夫妻を題材にした、
ミュージカル映画です(1939年)。
邦題は「カッスル夫妻」ですが、
私はどうも、書きなれたキャッスルで……。

描かれる舞台は1911年の二人の出会いから、
1918年にバーノンが空軍パイロットとして亡くなるまでの7年間。
白黒映画です。

キャッスル・ウォークという独特のスタイルを生み出し、
(しかもアメリカでなく、ヨーロッパでビュー)
フォックス・トロットも踊り……。

というところで、ラグタイムと関連してきます。
フォックス・トロットは、楽譜上でもダンスの世界でも、
1914年から登場する音楽ですが、有名な曲では、
Eubie Blakeの「The Chevy Chase」やなども当てはまります。

音楽的に、ラグタイムとどのように違うと言ったらいいのか?
また、ダンスの世界ではどのように認識されているのか?
そのあたりは、私としてはまだよくわかっていない部分です。
キャッスル・ダンスで、片足を後ろに曲げる特徴、
これだけは、何とかわかりましたあせあせ(飛び散る汗)

映画では、パリで二人が初めて「お試し」に踊る場面で、
ダンスホールのバンドが「Too Much Moutarde」を演奏していました。

また、今まで全く知らなかったのですが、映画によると、
キャッスル夫妻はヨーロッパで成功を収めると、
本当に大変な人気者となり、
夫人の服装や帽子、髪型は流行の最先端となり、
夫妻の名を冠した「あやかり商品」が次々に発売されたようです。
この時代、ファッションの世界にアイリーンが果たした影響は、実に大きかったようです。
「アイリーン・カット」と呼ばれた断髪は、当時の女性としては初の画期的なボブスタイル。
また、それまでの曲線的なポスト・ヴィクトリア風のファッションから、
1920年代にモダンでフラッパーな直線的スタイルが流行したのには、
アイリーンの服装の影響が大きかったそうです。

1920年代といえば、チャールストンが流行った時代。
あれを踊る女性の服装が思い浮かびましたが、
(映画「華麗なるギャツビー」でも見られます)
アイリーンは、あのファッションの走りだったのでしょう。
なお、Irene Castleで画像検索すると、
アイリーン本人の髪型やファッションの写真がたくさん見られます。

第一次大戦前の欧米の男女の服装や風俗、
そんなものも垣間見ることのできる映画でした。

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Key Stone Ragと韓国映画「猟奇的な彼女」

韓国映画「猟奇的な彼女」(2001)にラグタイムが使われているというので、DVDを借りて見てみました。

原題は、「My Sassy Girl」。
「猟奇的」というコトバから想像されるようなホラーではなく、Sassyの言葉通りの「生意気で身勝手で」というような内容のラブコメディです。
伏線もオチもよく作りこんであって、 笑わせながらもほろっとさせてくれます。
改めて韓国映画のレベルの高さと韓国社会の成熟度を感じました。原作はネット小説だそうです。 なお「猟奇的な」は現代韓国のサブカルチャー用語で、 「ちょっと変わってイケテル」「ぶっ飛んでる」 という意味だそうです。

Key_stone_rag_coverさて、音楽ですが、 主人公の大学生が「彼女」に振り回されるコミカルなシーンで繰り返し出てくるピアノ曲がラグタイム!
確かによく知ってる曲なのに、題名が思い出せず。
ただ、ラグタイムにしては後期の曲だと思ったので、 見当をつけて楽譜を探して判明。
Key Stone Rag(キーストーン・ラグ)(1921 by Willie Anderson Stark出版)でした。
この冒頭が繰り返し使われます。

また、ラグタイム風の始まりで、 だんだんジャズのアドリブになっていく曲もありました。
オリジナルなのだろうか?

監督も音楽監督(とても有名な人らしい)も、
映画「スティング」が意識にあるような気もします。
Key_stone_rag_p1022いずれにせよ、この内容でKeystone Ragを使ったセンスは、
なかなかのものだと思いました。

また、映画の内容と深く関わる曲に、
ジョージ・ウィンストンの「カノン」も使われていました。
一方、この映画の音楽としては、
主題歌の「I Believe」という曲がヒットしたようです。







Cdさて、DVD返却のついでに、サントラCDも借りてみました。
さすが、韓流は特設コーナーがあるから違います。

事前にネットで見たところでは、Key Stone Ragは入っていませんでした。
しかし、聞いてみると、
「エピソード4(レグ・タイム」」となっている曲はKey Stone Ragではありませんか!
しかも「作曲:キム・ヒョンスク」と書かれている!?
英語表記でも「EPISODE 4 music by Kim Hyung Seuk」。

改めてKey Stone Ragの楽譜を見ながら聞いてみましたが、
イントロ4小節を含め、最初の16小節を2回繰り返し、
ほぼ楽譜どおりの忠実な演奏でした。

映画は日本での公開は2003年。
また韓国では500万人を動員した大ヒット作で、
この数字はラブストーリーでは歴代ナンバー1だそうです。
また台湾、香港などでもヒット、
さらにスピルバーグが率いる「ドリームワークス」がリメイク権を獲得したほどの話題作だったようです。

キム・ヒョンスク(Kim Hyung Seuk)さんは、
韓国ポップミュージック界でも著名な作曲家兼プロデューサーということですが、
ラグタイムに造詣があることは確かです。
1921年出版のこの曲は、もう版権も切れていますが、
できれば、オリジナルの曲名と作曲者Willie Andersonの名を入れてほしかったなあと思います。

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映画「スティング」とジョージ・ロイ・ヒル

昨年9月、「映画スティングに、なぜラグタイムが使われたか?」という記事を書きました。
http://elmtree.air-nifty.com/ragromenade/2006/09/post_cc44.html

その際、監督ジョージ・ロイ・ヒルの息子が、
曲の選択に関わっていたらしいということを知ったものの、
それ以上のことはわかりませんでした。

Sting ところが!
その疑問に答えてくれる文章に出会いました。
先日、
映画「スティング」の楽譜(Hal Leonard Corp)なるものをゲットしたのですが、裏表紙に、監督ジョージ・ロイ・ヒルの回想文があったのです。
http://www.amazon.co.jp/Sting-Marvin-Hamlisch/dp/0881886149/sr=1-4/qid=1170942880/ref=sr_1_4/503-7941449-3019149?ie=UTF8&s=english-books
(上記リンクには1991年出版とありますが、中の楽譜の多くは2004年のcopyrightになっています)


すでにどこかで発表されている文章なのでしょうか?
ジョージ・ロイ・ヒルの自筆サインも印刷されています。
そこには、ジョージ・ロイ・ヒルとラグタイムの出会いが、
ばっちり書かれていました。



まず、1972年の秋の日のエピソード。
ジョージの上の息子は、その当時新しく録音されたジョプリンのピアノ・ラグに熱中していてました。そして、父親(ジョージのこと)ために弾くから聞いてくれと言い張ったことがあったそうです。この「録音」は、1970年11月からリリースされたジョシュア・リフキンのアルバムに違いありません。
そして、その直後、ジョージの13歳になる甥っ子が、家族の集まりでストンプしながらSwipseyを演奏したことがあったそうです。
この二人の少年に「釣られて」(はめられて――hookという単語を使っていますが、この映画のキーワードです)、彼はジョプリンの楽譜をすべて求め、自分の楽しみのために弾くようになったとか。
ラグというとホンキー・トンク調の即興だとしか思っていなかったのに、オリジナルの楽譜を見てその素晴らしさに目覚めたそうです。

(ここで訳注です。

ジョージ・ロイ・ヒルの大学での専攻は音楽でした。
イェール大で、当時ドイツから亡命中のパウル・ヒンデミットについて作曲を学んだとか。道理で。かるく弾けますよね~。
しかもその後、海兵隊のパイロットとして輸送機や戦闘機の操縦もしていたというから、並ではありません!)

さて次なるエピソード。

映画「スティング」の構想が決まったとき、
この映画にジョプリンのラグの素晴らしいユーモアと高尚な精神がぴったりだと思い、
採用を思いついたそうです。
しかも自らピアノを弾いて、映画のラフカットに合わせて会社側に提示したとのこと。
その際、映画でも自分がピアニストとしてピアノを弾くつもりだったのが、
あっさり却下されて、監督に専念することになったとか(どこまでホント?)。

その後、かねてから馴染みだったMarvin Hamlischを音楽監督に決めました。

しかし、打ち合わせをした際、曲の選択では二人の好みが全く一致したとか。
The Entertainer, Gladiolus Rag, Pine Apple Rag, Ragtime Dance、
そしてジョージの最も好きな曲はSolaceだそうです。

この映画で使われるSolaceは、実は原曲の後半部分のみです。
ABACDの構成のうち、CDがあの有名なメロディーですが、
ABもとてもゆったりした魅力的なハバネラです。
上記のサントラ楽譜には後半しか出ていませんが、
オリジナルを弾きたい方は、ぜひスコット・ジョプリンの楽譜集を求めて、
そちらで練習されることをおすすめします!

また、この楽譜ではThe Easy Winnersの調が「A]になっていますが、
オリジナルは「A♭」です。
これはオリジナルのほうがずっと弾きやすくて、
いくらサントラ版とはいえ、なぜ移調していあるのかわかりません。
(ピアノソロ用の楽譜なのに!)
弾きたい方は、この楽譜で「むずかしい」とあきらめず、
ぜひオリジナル楽譜で弾いてください。
ジョプリンの曲の中では「難所」の少ない弾きやすい曲なのです。

なんだか「オリジナル楽譜」がいいとばかり書いてしまいましたが、
上記の楽譜集は、ちょっとしたアレンジの参考になります。
ラグタイムは、クラシック風に楽譜どおりに弾いてよいのですが、
それに自分流のアレンジを加えた演奏も「あり」です。
そういう点から、参考になります。
また、この映画の音楽監督Marvin Hamlisch作曲の
The Groove, Hookers`s Hooker, Lutherの3曲が入っているのも特徴です。
ジョプリン曲の編曲は誰がしているのだろうと思ったのですが、目次にだけ記載がありました。Marvin Hamlischではなくて、
Gunther Schuller (かつてNew England Conservatory Ragtime Ensembleの指揮者として、70年代のラグタイム・リバイバルに貢献)とのことでした。
 

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ケーク・ウォークの映像

 アメリカのダンスの歴史を紹介するサイトで、ケーク・ウォーク(Cake Walk)の映像リストに、映画『桑港(サンフランシスコ)』(1936)の名があったので、VHSやDVDを探しました。
http://www.streetswing.com/histmain/z3cake1.htm

 最寄のレンタルショップにはなくて、結局、DVDをネット注文(980円也)。この時代の映画で出回っているものは本当に少ないようですが、クラーク・ゲーブル主演なので、かろうじて生き残っていたのかもしれません。クラーク・ゲーブルの名を一躍知らしめた映画『風と共に去りぬ』も1936年の公開で、なんと同じ年の映画のようです。

 舞台は、1905年のサンフランシスコ。当時世界一の港といわれ、活気に満ちています。しかし、1906年4月18日には、歴史にも残る「サンフランシスコ大地震」が起きて、壊滅状態になるのです。その日をはさんだ数ヶ月を、街のクラブ経営者、歌姫、牧師、有力者などをめぐる人間模様とともに描いています。セントルイスではスコット・ジョプリンが活躍していた時期です。またジョセフ・ラムのお兄さんは、このときサンフランシスコにいたのです。まさにラグタイム全盛期が背景。この時代を描いた映画は少なくて、いろいろな意味でレアです。

 ケーク・ウォークが出てくるモンダイのシーンは、始まってから1時間24分ほどの場面でした。「チキン・ボール」(鶏の舞踏会)という賞金1万ドルのコンテストがあり、ボードビルやお笑い、歌手など、各方面の芸達者が出演します。その冒頭のシーンが、正装した黒人の男女が何組も踊るケーク・ウォークでした。ペアで、ラインダンスのように足を交互に高く上げ、同時に背中をそらし、リズミカルに踊ります。見れば一目瞭然、真似るのもそんなにむずかしくなさそうなステップでしたが、とても特徴的な動きでした。音楽は、いかにものケーク・ウォークのリズム。何の曲だろうか。オーケストラが演奏していました。

 音楽的に興味深かったのはもうひとつ。街一番のクラブ「パラダイス」で歌手として雇われた女性メアリーは、本来はオペラ歌手希望ですが、昼間の酒場で素晴らしい歌声で練習をします。クラブのバンド指揮者でピアノ弾きでもある「プロフェッサー」は、彼女の才能を生かすようなゆったりしたクラシック風のメロディーで歌わせているのですが、経営者のブラッキー・ノートン(クラーク・ゲーブル)が聞きとがめてやって来ます。そして、プロフェッサーをピアノの前から追いやって、立ったまま自らピアノを叩き、ラグタイム風のストライド演奏の見本をみせるのです。そして、「ここはサンフランシスコだから、こういう音楽をやるんだ」みたいなことを豪語。プロフェッサーも雇い主に逆らうわけにはいかず、音楽のテンポが上がるのです。クラシックが主流で、ラグタイムは新しい音楽だった雰囲気、それをまさによく表すシーンでした。

 地震の様子を描くシーンは大掛かりで、派手で、さすがハリウッド映画。地震のすさまじさをよく伝えていました。また、ストーリーの予想される結末も、予想通りながらちょっと感動的で、ほろっとします。地震の救護所を描く不安で暗いシーンのバックに、明るいケーク・ウォークのリズムが使われていたのは、妙に効果的でした。

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映画『スティング』に、なぜラグタイムが使われたか?

スコット・ジョプリンの「エンターテイナー」に代表されるラグタイム音楽。
このラグタイム音楽が世間に広く見直されるようになったのは、
『スティング』(1973)の映画音楽として使われたから、と言われています。

この映画はストーリーの面白さと、
ポール・ニューマンやロバート・レッドフォードらの達者な演技、
軽快な音楽で大ヒットし、同年、7部門でアカデミー賞を受賞します。

さて、それなら、なぜこの映画にラグタイムが採用されたのでしょう?
1930年代のシカゴが舞台のこの映画。
当時の音楽だとしたら、ジャズを使ってもおかしくないし……。
この映画の音楽担当は、マーヴィン・ハムリッシュ
数々の映画音楽を手がけているベテラン音楽家ですが、
その功績なのでしょうか?

ここ数日、疑問に感じていたのですが、
ラグタイム・ピアニストにして研究家のBill Edwards氏が、
これについて述べていました。
(彼のサイトの、”The Entretainer”の曲目解説の部分)
それによると、『スティング』の監督ジョージ・ロイ・ヒルは、
この映画ができる2年前、
ジョシュア・リフキンが弾いたスコット・ジョプリンのピアノ・ラグのレコードを聞き、
自分の新作に使うことを思い立ち、
音楽監督のハムリッシュに、アレンジを依頼したというのです。
しかも、ロイ・ヒルの息子がその録音に関わっていたらしい……(ほんと?)。

クラシック音楽学者で、今やバッハ研究の権威ジョシュア・リフキン(1944~)が、
ピアニストとしてスコット・ジョプリンのラグタイムを弾いたレコードを出したのが、
1970年のことでした。(”Piano Rags by Scott Joplin” by Joshua Rifkin )。  

このレコードは大ヒットしますが、それについて、リフキンはこうコメントしています。
「我々は、このレコードを1970年の11月に発表した。そして、直ちに、非常に熱狂的な社会の反応ぶりを受け取ることになる。レコードの販売促進用の広報活動に一銭も金を使わなかったにもかかわらずだ。ともかく、レコードは、まさに、すごい勢いで売れていった。それは、真実、まことに驚くべき出来事だった。」
(「スコット・ジョプリン ピアノ・ラグVol. 1」のライナーノーツより)

ジョージ・ロイ・ヒルが聞いたのも、このレコードでしょう。
すでにこのレコードのヒットで、
ラグタイムは社会的に再認識され始めていました。
しかも、クラシック音楽の分野からの着目という点で、
幅広く受け入れられたのではないでしょうか。
映画『スティング』がラグタイム・リバイバルの立役者だったかもしれませんが、
ジョシュア・リフキンのラグタイムへの関心があってこそのことだったのです。

ジョシュア・リフキンとラグタイムの出会いは10歳(1954年)のころだったそうです。

ニューヨーク生まれのリフキンは、
当時ニュー・オーリンズ・ジャズに興味を持っていました。
そして兄弟とともによく下町へ行き、
ニュー・オーリンズからやってきていた古いジャズメンたちと知り合って一緒に演奏し、
スコット・ジョプリンの曲も、そこで知りました。
そしてジャズメンたちが弾くような弾き方で(つまり、ジャズ風にアレンジしたかたちで)、
弾いていたそうです。

そして1968年(24歳)ころ、
友人の作曲家がラグタイムの小品を手に入れて興味を持っていると聞き、
子ども時代のことを思い出します。
クラシック音楽を正式に学んだ目でラグタイムを見直してみると、
それは自分が昔弾いていたものとは、まったく違っていたことに気づいたそうです。
そしてリフキンは、その友人エリック・ザルツマンとともに、
「ラグタイムと初期ジャズの夕べ」というラジオ番組を持つようになりました。

こうしてラグタイムへの関心を深めていき、
リフキンは、ジョプリンのラグタイムをクラシック音楽としてとらえ直すようになります。
(すべてのラグタイムが、というわけではないそうですが)
自分がかつてジャズとして弾いていたときのような慣習的な弾き方でなく、
楽譜に書かれている通りに演奏するべきものとみなし、
そのように演奏したのです。
つまりスコット・ジョプリンのラグタイムを、
クラシック音楽としてとらえ直したのでした。
そしてレコード化を考え、
あえて、クラシック・レーベルから発売したのだそうです。
(以上、上記のライナーノーツによる。LP発売当時のものが流用されているとのこと)

映画『スティング』に、なぜラグタイムが使われたか?
なぜ、この映画をきっかけにラグタイムがリバイバルしたか?

第一に、ジョシュア・リフキンの功績
第二に、ジョージ・ロイ・ヒルの慧眼
第三に、映画に音楽を巧みにフィットさせたマーヴィン・ハムリッシュの手腕

以上が答えといってよいでしょうか。

このことについて、もっと何かご存知の方がいたら、
ご教示いただければ幸いです。

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★その後、判明した経緯があります。こちらの記事も合わせてどうぞ。
http://elmtree.air-nifty.com/ragromenade/2007/02/post_b5f5.html#comments

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スコット・ジョプリン「エンターテイナー」の弾き方

_llsdv0420640101screen ラグタイムを弾き始めた最初の頃から"The Entertainer"を弾いていますが、
なかなかうまく弾けないでいました。
ハ長調なので、右手の和音の連続が厳しい……。
ちょっと練習しないでいると、きれいに弾くのがむずかしいのです。
(低次元の話題ですみません……)

先日、ドラムと一緒にこの曲を合わせてみて、新発見がありました。
リズムが一定していると、とても弾きやすいのです。
一人で弾いていると、どうしても右手のメロディーに引きずられて、
基本的な左手のリズムが甘くなるのです。
それがドラムと一緒だと、弱い部分を気づかせてくれ、しかも補ってくれるのでした。

もうひとつ、発見をしました。
弾きにくいと思っていた右手の和音の連続ですが、
指使いを変えるだけで見違えるほど楽になりました。
オクターブの連続部分、
従来は自己流でほとんど「1・5」の指だけで弾いていたのですが、
「1・4」と「1・5」を適宜、交互に組み合わせることで、
劇的に弾きやすくなりました。
3つの和音がある場合も、「1・3・5」と「1・4・5」を組み合わせる……、
これで、ずいぶん違います。
それから、すべての和音に力を入れるのではなくて、
経過音の和音は、力を抜いて軽く流す……。

その人の手のサイズにもよるかもしれませんが、
私のサイズはオクターブまで。9度は無理すればいきますが。10度は完璧不可。
でも、ラグタイムを弾いていたせいか、
知らないうちに「1・4」のオクターブは苦痛でなくなりました。

これに気づかせてくれたのは、ピアノ・レッスンです。
別のラグタイム曲を見てもらっているときに、
オクターブの運指を指摘されました。
そのテクをエンターテイナーに当てはめてみたらバッチリでした!

もし、エンターテイナーの演奏で悩んでいる方がいたら、
是非、研究してみてください。

いずれにしろ、この曲は早く弾きすぎないことです。
これは、作曲者のスコット・ジョプリンも、すでに指摘しています。
よく知られたあのテーマの部分も、
少しルバートをかけるくらい、思わせぶりたっぷりに弾くくらいで、
ちょうどいいのではないかと思います。

楽譜はやさしく編曲したものもたくさんありますが、
スコット・ジョプリンが1902年に作曲したそのままの楽譜をおすすめします。
この時代のクラシックなラグタイムには楽譜があり、
演奏上の記号などから、作曲者の意図を読み取ることもできるので……。

●国内版だと、ドレミ楽譜出版社の『スコット・ジョプリン ピアノ名曲集』などがおすすめです。ジョプリンの「ラグタイム講座」の翻訳も収録されています。映画『スティング』(1977)に出てくるスコット・ジョプリンの曲のオリジナルも、すべてここにあります。
●また、全音からも『スコット・ジョプリン:ピアノ・ラグタイム曲集』が出ています(http://www.zen-on.co.jp/disp/CSfLastGoodsPage_001.jsp?GOODS_NO=907&KEY_SEARCH)。

●やさしいアレンジ集なら、このようなものも。左手の伴奏が楽です。でもこの楽譜は今は品切れかもしれません。
『やさしく弾けるラグ・タイム ピアノソロアルバム』(kmp出版)
http://elmtree.air-nifty.com/ragromenade/2005/08/post_ade5_1.html

●オリジナルの楽譜〈1902年出版)は、このインディアナ大学図書館のサイトから、ダウンロードできます。上の写真は、出版当時の「エンターテイナー」の楽譜の表紙です。(http://webapp1.dlib.indiana.edu/sheetmusic/devincent.do?&id=LL-SDV-042064&q1=LL-SDV-042064&sid=e895a93d9507f5cad3cef53cd5b30beb

(楽譜情報は、2006年9月24日追記)

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